日本でも徐々に手に入りやすくはなっているものの、世界基準で見るとまだまだ後進国である、オーガニック(有機)食材。欧米では「普通」になって久しく、特に健康志向なニューヨーカーはオーガニックしか食べないと言う人も少なくありませんが、それでも、私自身含め有機食材に対して間違った知識を持っていたり、正しい情報を知らないままオーガニックにこだわる人がいるのも事実。

オーガニックに関しては奥が深く、そしてあまりに情報が錯乱しており、何が正しく何がそうでないのか判断するのも難しいような状況です。以前はオーガニック認定も州ごとで曖昧だったので、マーケティングの一環として乱用されていた時期もあり、私もオーガニック食品に対してネガティブな印象を持っていた頃もありました。今では規定も国で統一され、そういった問題はなくなりましたが、きちんと自分で理解して納得した上で正しい食材を選べるように、現状を少しまとめてみました。

オーガニックは美味しい?栄養価が高い?

まず最も多く見かける間違った情報に、「オーガニック=美味しい、栄養価が高い」と言うものがあります。これが理由でオーガニック食材を選んでいる人がとても多いですが、正式な研究ではこの結果はまだ確認されていません。単発の研究の中には、栄養価が高いと言う結果が出たというのもありますが、正式な立証とするには規模や期間が短かったりとで必要となるデータがまだ揃っていない状態です。

この理由として、オーガニック食材に関する厳密な規格が定められてからの年数がまだ短いことや、研究のための十分な予算が取れていないからということが挙がっています。現時点での研究結果としては、有機食材と慣行食材の栄養価の違いを示す証拠はありません。

オーガニックと認められるには

現在のアメリカの規定では、以下のルールに沿っているものがオーガニックと認定されます。

  • 除草剤を含む、従来の農薬を使っていないこと
  • 合成肥料を使っていないこと
  • 下水汚泥を使っていないこと
  • バイオエンジニアリング(GMO/遺伝子組み換え等)を使っていないこと
  • 電離放射線を使っていないこと
  • 家畜の餌がオーガニックであること
  • 家畜に成長ホルモンや抗生物質を使用していないこと
  • 家畜が牧草飼育される環境にあること

このリストを見ると、オーガニック食材の方が安全であることが一目瞭然ですが、もう少し踏み込んでみてみようと思います。

野菜や果物

上のリストを見ての通り、有機栽培の青果には農薬が使われていません。農薬といえば、半年ほど前にThe Guardianの記事で大きく話題となったのが、『Pesticide residues found in 70% of produce sold in US even after washing(アメリカで売られている農産物のうち70%は、水洗いした後でも残留農薬が検出された)』という記事。環境保護団体のThe Environmental Working Groupによるこの調査によると、最も残留農薬の多い農産物のワースト3は、いちご、ほうれん草、ケール、とのこと。オーガニックの野菜や果物の方が残留農薬が少ないのはほぼ確実だと思いますが、記事によると、有機食材と慣行食材の残留農薬度合いや、残留農薬が健康に及ぼす影響についてはまだわかっていないとのことです。

また、オーガニックの農産物には、農薬が使われていないために当然害虫や雑草も多く、それらと戦うために自ら化学成分を生成しており、この成分が時には農薬よりも人にとって有害となることもあるのだそう。さらには、有機食材には大腸菌などを含む細菌を有している確率が高いという検査結果もあり、オーガニックであれば絶対安全とは一概に言えないのが実情です。

有機食材にせよ慣行食材にせよ、大事なのは何でもよく水洗いすることです。半年ほど前に話題となったFDA(アメリカ食品医薬品局)の調査結果が示すように、アボカドやみかんのような皮をむいて食べる食材も同様に全てよく洗うことを勧めています。

牛乳

牛乳も、安全面や栄養素の面では、有機のものとそうでないものとの差異は見られていません。がしかし、有機でない牛乳は、成長ホルモンや抗生物質を使用した劣悪な環境に置かれた乳牛から搾取されていることが問題視されています。全てがそうではありませんし、オーガニック飼育の牛でも同じような環境に置かれていることもありますが、見逃せない事実ではあります。

オーガニックではない牛乳でも、「No Hormones」「No Antibiotics」と表記されている牛乳もあるので、それらを選ぶ方が賢明です。

そしてオーガニックの牛乳を選ぶ際に覚えておくべきことは、超高温瞬間殺菌(Ultra-high temperature [UHT] pasteurization)されているかどうか。有機牛乳は長持ちさせるためにUHT殺菌されていることが多く、オーガニック牛乳の方が賞味期限がうんと長いのはこのためです。有害菌を抹消するための工程ですが、有用菌までも死滅させてしまうのがUHT殺菌。さらには、たんぱく質が高温によって熱変性を起こすため、身体が外来タンパク質と認識して、無駄に免疫力を使ってしまうという障害も。オーガニック牛乳特有の味や臭いもUHT殺菌によるものです。

精肉

もともと牛は牧草のみを食べて育つ生き物ですが、早く太らせるために餌として使われるのがトウモロコシや大豆。それだけでもアンナチュラルですが、その餌の中にGMO(遺伝子組み換え)穀物を使用していたり、太らせるために成長ホルモン、病気にならないように抗生物質を使用していることが問題となっています。ちなみに抗生物質が残っている肉は破棄され、市場に出回る肉は安全なものだけだそう。

そしてオーガニックの牛肉は、上記の規定にあるように、「オーガニックの餌を与えられ、成長ホルモンや抗生物質が使われず、牧草飼育される環境にある」のものを指しますが、牧草のみで飼育されなければいけないという決まりはなく、つまり穀物も飼料として使われます。

そこで次のレベルにあるのが「グラスフェッド(Grass-fed)ビーフ」。本来のように牧草のみで育てられる牛のことを指します。ちなみに豚や鶏は牧草だけでは生きていけず、元から穀物も食べる動物なので、Grass-fed porkやGrass-fed chickenのような呼び方はしません。代わりの呼ばれ方はPastured porkやPastured chicken。

ちなみにふと思い出したのが、このNYタイムズの記事。もともとベジタリアンまたはビーガンで、後に肉屋になった人たちについて書かれた記事です。動物が好きだからこそ、良い環境で愛情かけて育てた家畜の肉だけを扱うという肉屋たちです。彼らの多くが、肉を食べるようになってから身体の調子が良くなったと話しているのが興味深いです。

オーガニック食材は買うべきか?

繰り返しになりますが、味や栄養価としての違いは今のところ立証されてはいません。けれども農薬などの毒素は、水や土壌に蓄積していくのは確実です。殺虫剤や除草剤で大量の虫や植物が殺されているのも事実。また、農薬を使う農家の人やその近辺に住む人たちの健康への影響も懸念されます。自分の健康のためだけではなく、地球環境保護のためにも、オーガニックを選ぶのは人としての責任と言えるかもしれません。

時代の変化というのもあってか、実はGiorgioはオーガニック食材に対してそれほど積極的ではありません。グルメな人=オーガニック好き、というイメージがあるので人によく驚かれます。

彼はよく、「食材を選ぶときに一番大事なのは(オーガニックかどうかではなく)新鮮かどうか。」と口を酸っぱくして言います。

新鮮かどうかは関係なく、オーガニックを選んでおけばとりあえず美味しくてヘルシー、と盲目的に選ぶ人も少なくありません。そう言う風潮を彼は嫌っています。新鮮な食材を自分の目で確かめて選んで、そしてその美味しさを最大限に味わい、楽しむ。ヘルシーだから選ぶのではなく、本当にいい食材は必然的にヘルシー。そう考えています。

彼の意見も間違っているとは思いません。どちらが正しくて、どちらが正しくない、と言うことではなく、他人の意見や、表面的な理由だけで選ぶのではなく、自分で考えて、自分のために、または地球のためにベストだと判断して選ぶことが大事なのだと思うのです。