海外で子育てをする日本人にとって共通の悩みといえば、日本語継承問題。バイリンガルで育てるというのは簡単なことではありません。

親は日本人なのに日本語は喋れない、という日系人は決して少なくなく、家庭の会話が英語になる片親日本人ならともかく、両親ともに日本生まれの日本人という家庭に育ったのにも関わらず、日本語が喋れないという人に出会った時には、「一体なぜ?」と当時は思いました。が、実際に自分にも子供ができた今、その理由がわかりました。簡単ではないのです。

日本語が喋れない日系人や日本人ハーフの人と話すと必ず口を揃えて、「(親から)もっと日本語をきちんと教わりたかった。日本語が喋れるようになりたかった。」と言います。

英語圏外のヨーロッパ出身でニューヨークで子育てをしている人は、夫婦が別々の国出身であっても、子供はそれぞれの親の言語を完璧にマスターしているケースが多く、それは同じ語族で習得しやすいというのも一理あると思いますが、何か秘訣はあるのかと知り合いに聞いてみたところ、「子供が英語で話しかけてきたら、わからないフリをして自分の母国語で『何言ってるかわからないわ、〇〇語で言って』と言うのよ。子供が小さい頃からそれを徹底していたから、成人した今でも私に英語で話しかけてくることはないわ。」と話していました。

一方、別の知り合いの日本人ご夫妻からはこんな話も聞きました。海外で子供に日本語をきちんと習得させることがどんなに大変なことかは重々承知していたので、産まれた時から娘さんには日本語だけを話しかけ、テレビも絵本も日本語のみ、日系の保育園にも行かせ、とにかく徹底させたそう。おかげで日本語のしっかりとした基礎を作り上げることをニューヨークにいながら実現。けれどいざ現地校の小学校に入学したら、英語がわからないので学校やクラスメートに全く馴染めず、学校に行くのを相当嫌がったそう。慣れるのは時間の問題とはいえ、それでも娘にあのストレスを味わせてしまったのは可哀想だった、申し訳ないことをした、とその親御さんは話されていました。

ニューヨークには、日系の保育園だけでなく、小中高校もあります。現地校に通いながら日本語を学ぶ土曜補習校などもあります。親が子供に日本語教育を与える上で、まず決めなければいけないのが、日本語でコミュニケーションが取れれば十分なのか、それとも日本語の読み書きもマスターさせるかどうか。将来子供が日本に移住して就職することなどを考えると、やはり読み書きができないと難しい部分もあると思いますが、そうでなければコミュケーションさえ取れれば問題ありません。漢字を使う日本語の読み書きを習得するのは並大抵のことではなく、親にとっても相当な覚悟が必要です。前述の土曜補習校では、日本の義務教育で1週間かけて学ぶことを、土曜1日と宿題だけで補うのだそう。想像がつく通り、大量の宿題をこなさなければなりません。これによって、子供が「日本語=宿題が多くて大変=嫌い」というネガティブな印象を持ってしまった、という話もよく聞きます。

私たちも、数年前にプリスクールを選ぶ際に、日系保育園の見学にも行きました。楽しく日本語を学べるので魅力的ではありましたが、言語に関係なくプリスクールの教育方針として気に入った今の学校を最終的に選びました。日本語を教えることばかりに集中しすぎると、他の大事なことを忘れてしまいそうになるので、そこは意識して気をつけるようにしています。

私自身、家庭での日本語教育は、恥ずかしながら徹底できていません。前述のような話を出産前から色々聞いていたので、自分は頑張って日本語を教えようと意気込んでいましたが、実際に子供が生まれてから、それがどんなに大変なことかを痛感しました。私が日本語で話しかけても、英語で返事されると私もつられて英語になってしまったり、怒ったり言うことをちゃんと聞いて欲しい時や、またその場に日本語のわからない夫がいればやはり気をつかって英語にしてしまいます。意志が弱くて情けないです。それでも、日本語は楽しいもの、日本は楽しいところ、という印象だけは持ってもらうように心がけています。

なかなか日本語が上達しなかった息子ですが、夏休みに帰国して地元の保育園に通わせたり、先月の春休みはNY市内の日系プリスクールで1週間お世話になったおかげか、最近やっと少しずつ日本語を発するようになってきました。「これは日本語で何?」と聞いてくるたびに、心躍らせながら教えてあげています。