日本でデザイン分野で働く方とお話すると、日本はデザイナーの社会的地位が低いと感じることが多くあります。アメリカでは経営においてのデザインの重要性が十分理解され、ビジネスを成功させるための大事な要素であることが認識されているので、デザイナーへのリスペクトは非常に高く、優れたデザインに支払われる対価も当然低くありません。

デザインの重要性が理解されていないという課題の他に、日本には広告代理店至上主義という個人レベルではどうしようもない根強い社会的問題もあるため、その壁は高く厚いですが、若いデザイナーの方の話を聞くと、この問題はデザイナー側にもあるということにも気づきました。

そこで、日本のデザイナーの地位を少しでも上げるため、そしてデザイナーの方々がもっとリスペクトフルな環境で力を発揮できるようにするため、これからやってほしい8つのことを書きたいと思います。

1. 自分を安売りしない

「予算がないというので、打ち合わせをした喫茶店のコーヒー代で仕事を受けてしまいました」という若いデザイナーの方の話を聞いたときには驚きましたが、日本では本当によくある話です。

予算もなくデザインの仕事をお願いしようとする人の、デザイナーに対してのリスペクトがないのはもちろん問題ですが、それで受けてしまっては、「デザインって安いものなんだ」と思われても仕方がありません。あなたの価値を下げるだけでなく、デザイナー全体の価値をも下げてしまいます。

「とりあえず今回引き受けておけば、次に大きなプロジェクトに繋がるかも」「知り合いの多い人なので、いいデザインを提供することができれば他にもクライアントを紹介してくれるかも」という思いで、低価格で引き受けるという方も少なくないと思います。けれどその場合、「安くデザインをしてくれる」というラベルが付きますから、たとえ次に繋がっても、残念ながら同じような扱いしか受けません。

自分の提供するものにきちんと適正価格をつけ、提示しましょう。あなたのデザインに対してきちんと価値を見出しているのなら、たとえそれが少し高くてもクライアントはあなたに仕事を依頼します。

あなたより安い価格を提示する人は必ずいます。ポートフォリオづくりのために無料で引き受けるという美大生がごろごろいるでしょう。あなたより安く引き受けてくれるから、タダでやってくれるから、という理由だけで別のデザイナーを選ぶようなクライアントは、あなたのデザインに対する価値どころか、デザインそのものの価値を見出していません。そんな人と本当に仕事がしたいかどうか、よく考えてみてください。

わたしたちの所属しているAIGAというアメリカのデザイナー協会では、デザイナーの地位とリスペクトを守るために、Spec work(未確定の仕事=タダ働きになる可能性大な仕事)を断るよう推奨しています。日本ではなぜかほとんど取り上げられませんでしたが、オリンピックのロゴのコンペの時も、AIGAから抗議の手紙が東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の森会長に送られました。(関連記事

わたしたちも、コンペ形式の仕事はすべてお断りしています。最初の一歩は勇気のいることですが、一人一人の小さな動きで業界が変わっていくと思います。

2. 適正価格をつける

「それができれば苦労しない」と言われそうですが…。デザイナーは誰もが通る道、価格設定の苦悩です。価格の算出方法は人それぞれ。作業量、難易度、露出度など考慮する点は色々あると思います。がしかし、これらを緻密に計算して時間をかけて算出するのは時間の無駄です。その時間とエネルギーは、クリエイティブな作業に当てましょう。前段でも述べた通り、あなたに仕事を依頼したいと本当に思う人は、料金が少し上下したところで、その気持ちが変わることはありません。

では、何を決め手に価格設定をすればいいのか?

プロジェクトの実質的なことは踏まえつつも、最終的には、あなたがいくら欲しいか、あなたがいくら貰うことができれば十分だと思えるか、というシンプルな着地点が最適と言えるのではないでしょうか。いくらで引き受けたとしても、引き受けた以上は常に100%の力で仕事に挑む、と言うのは当然のモチベーションですが、リクエストが多かったり無駄に時間がかかったりすると、「安く引き受けてあげたのに…」と思ってしまうのは人間なら自然なこと。そんなストレスを感じながらプロジェクトを進めることほど辛いものはありません。さらに、安く引き受けてしまうと、金銭面的にそれを補うために他のプロジェクトも抱えなくてはいけなくなり、それぞれの仕事に十分な時間やエネルギーがかけられなくなってしまっては、本末転倒です。

3. 値段交渉は人に頼んでみる

デザイナーは自分のスキルそのものが商品のようなもので、つまり仕事の値段をつけると言うことは、自分自身の価値に値段をつけているようなもの。どおりで難しいはずです。そしてそれを、「自分はこんなにすごいからこの値段なんだ」と言わんばかりに交渉しなければいけません。そもそもそんな度胸や話術があれば、別の仕事に就いていたんじゃないか、と思うデザイナーも少なくないはず。それならば、それが得意な人に任せてみましょう。周りの友人や知人に得意な人はいませんか?

誰かに頼む際に大事なことは、その人があなたのクリエイティビティが大好きで信頼しているということ。自信があるからこそ説得力を持って交渉することができます。

4. 英語を勉強する

海外で仕事ができたり、海外の案件を獲得できたりと、英語ができればチャンスが広がるのは言うまでもありませんが、売り上げが海外市場に依存する日本の会社が増えるにつれて、日本国内でのデザイナーとしての選択肢が増えるのも当然です。

ブランディングやデザイン経営など、まだまだ言葉が一人歩きしている日本では、それらについて学んだり、最新情報を得られる場もほとんどありません。海外からはウェビナーなども多く発信されているので、英語ができれば日本にいながら最先端の教育を得ることができます。変化のスピードが激しく、海外から発信される最新の情報を把握しておくことが重要なスキルであるデジタル業界も同様です。

続きは【後編】にて。