私たちHI(NY) designは、チームのほとんが女性です。去年出版した書籍、『ニューヨークのアートディレクターがいま、日本のビジネスリーダーに伝えたいこと』のアマゾンのページにて、「よく一緒に購入されている商品」の箇所にほぼ必ず並んでいるのが、グレース・ボニー著書の『自分で「始めた」女たち 「好き」を仕事にするための最良のアドバイス&インスピレーション』。さまざまな分野で活躍する112人の女性のインタビューを集めた、アメリカのベストセラー本です。私たちの著書では、本文では私たちが女性であることはもちろん触れているものの、タイトルを含めその点を前面に押し出しているわけではなかったので、こうして女性であるということにフォーカスしてもらえるのは本当に嬉しいです。

私の周りにも、『自分で「始めた」女たち』が何人かいて、分野はさまざまですが、彼女たち全員に共通して言えることは、みんなとても輝いていてパワフルだということ。仕事の話をすると、会話の半分は辛いことや大変なことについてですが、それを次へのエネルギーとして変換する彼女たちの力溢れる姿に、私も常に刺激を受けています。

そこで、私もそんな彼女たちを『「作る」女性たち』というシリーズで不定期になりますが紹介していきたいと思いました。

1人目として今日紹介するのは、ジュエリーデザイナーのキム・ダンハム。私の10年来の友人で、抜群のセンスを持つ女性です。

 

 

彼女がクリエイトするのは、指輪。ただの指輪ではありません。それを身につける本人の人生や思想、ルーツまたは大切にしていることなど、その人の物語をギュッと凝縮したデザインを刻印した、印章指輪を作っています。

デザインをする上で、最大のインスピレーションとなるクライアントの「物語」を彼女は集め、じっくりと理解します。このプロセスが故に、去年彼女をフィーチャーしたNYタイムズマガジンでは「一部は歴史家、または人類学者、セラピストでもあり、(異議があるかもしれないが)シャーマンでもあるジュエリーデザイナー」と紹介しています。まさにセラピーセッションのような会話になることが多いらしく、中には感情溢れて泣き出してしまう人も少なくないのだとか。

彼女の指輪のもう1つの特徴は、外から見える指輪のデザインがその人の「物語」であるのと同時に、内側には自分だけへのメッセージを刻み込むことができるということ。それがその人にとって鼓舞させるものなのか、安心させるものなのか、それは本人の自由。自分にとって本当に意味のあることを刻みます。

ケンタッキー州出身のキムは、大学でアートを学び、その後はジュエリー関連の仕事に長年携わってきました。けれどこの自身のブランドを始めるまでには数年間のブランクがありました。世の中には、高級ジュエリーからファストファッションのジュエリーまで、ありとあらゆるジュエリーブランドで溢れています。しかし、肌に密着して身に付けているものなのに、それがどんなに美しいものであっても、それと自分の間にパーソナルな接点があるジュエリーはそう多くありません。そんな中でまた新しいブランドを作ることに意義を見出せなかったのだと言います。

彼女はまず、自分自身を物語る印章指輪を作りました。その次に彼女の旦那さん。そして友人たち。自然な形でその「輪」は広がっていきました。ものが溢れ膨大な数の選択からネット上で自由に選べるようになり、そしてデジタル化が進み人と人のコネクションがどんどん薄れてきた世の中で、彼女が作り出す指輪のようなものに、人々は飢えていたのかもしれません。何せ、買う側も作る側も、時間と感情とエネルギーを大量に必要とするのですから。

 

 

実は私も彼女に指輪を作ってもらいました。ただ私の場合は、既にあるデザインのもののレプリカを無理を承知でお願いしました。というのも、以前「Giorgioのこだわり【指輪】」で紹介したアレクサンドロス大王の指輪のレプリカを作りたいとずっと思っており、その話を彼女にしたら快く引き受けてくれたのでした。

ただ全く同じものにしたくはなかったので、キムと相談して小さなダイヤを埋め込むことに。ダイヤは、紛争ダイヤモンドを使いたくなかったため、ラボ・グロウン ダイヤモンドを使おうと私は考えていたのですが、彼女が使うダイヤは、人・社会・自然に配慮して採掘されたダイヤのみを使用しているとのことで、ひと安心。

そして内側のメッセージは、「Esse Quam Videri」を。古代ローマ期の哲学者、キケロが残した格言で、英語に訳すと「To be, rather than to seem」。単純には「見かけよりも実質を」という意味ですが、私の個人的な解釈として、「人からどう見えるか」よりも「自分がどうありたいか」を大切にするという意味とも理解しました。これは、Giorgioのおかげで私が克服しつつある課題。そしてそれは、私のデザイン・フィロソフィーにも繋がること。見た目だけではなく、意味のあるデザインをクリエイトし続けたいという思いも込めて、このメッセージを選びました。

人生いろんなことを経験してきた今だからこそ、人の辛い思いや嬉しい気持ちを理解することができ、だからこそ物語のあるデザインを、意味のある指輪を作れるのだとキムは話します。きっと今もどこかで、彼女は誰かの物語を集めているのでしょう。

「作る」女性たちシリーズ