私は日本での社会経験がないため、HI(NY) designで日本のお客様とも仕事をするようになった際、日本人とアメリカ人の働き方に大きな差があることを感じて、最初は戸惑いました。
インターネットの普及もあり、特にデザイン界では日本と欧米の国境が無くなってきていますが、それでもやはり日本に根付く仕事文化や慣習などは独特なものがあります。これから海外で活動したいと思っているデザイナーの方、またはアメリカから仕事依頼が来たデザイナーの方のお役に少しでも立てればと思い、これまでに感じたことをリストにしてみます。
1. 自己主張
アメリカ人は本当に自己主張が強く、ストレートで、オブラートに包むようなことはしません。その人にデザイン経験の有無に関わらず、デザイン批判も容赦ありません。けれどそれは、議論することが前提なだけであり、悪気があるわけではありません。よってこちらも図々しいと思えるくらいはっきりと言うことができます。思ったことをそのまま言えるというのは気持ちのいいことです。結果言い合いになることも少なくありませんが、当然のプロセスなので、それによって関係が悪くなるということはまずありません。
2. ミーティング
日本ではミーティングの数が非常に多く、会議の出席者数も多いですが、効率の良さを求めるアメリカでは、ミーティングの数は最小限、そして人数が多い会議は効率が悪いので最低人数で行われます。「この会議、必要かな?」「このミーティングに私が参加する意味あるのかな?」ということはまずありません。また、日本のように実際に会うことをそれほどは重要視しておらず、よってネット会議の割合も非常に高いです。
3. 発言
そのミーティングで何よりも大事なのは、発言をすること。発言をしない=仕事をしていない、やる気がない、とみなされてしまいます。ここで効率性を求める傾向に矛盾するのですが、「発言は多ければ多いほどいい」と思っている人も多く、それが故に、要領を得ない無駄な話をダラダラと発言し続ける人もよくいます。それでも、全く発言しない人よりはうんと評価されます。
4. 契約社会
よく言われる通り、アメリカは契約社会です。何をするにもきちんとした契約なしでは物事が進みません。日本のように、信頼関係の中で問題などは対処していく、というような感覚は一切ありません。デザイナー側から契約書について切り出すのはクライアントに失礼ではないかと思う人が日本には少なくないかもしれませんが、アメリカでは逆に契約書なしで進めようとすると、不審がられてもおかしくありません。特にデザイン系はその性質上、曖昧な部分が多いので、細かい部分まで詰めておく必要があります。
5. 訴訟社会
そしてアメリカは訴訟社会でもあります。私たちも弁護士を雇って訴訟直前まで進めた経験があります。それを防ぐための契約書であるのにも関わらず、平気で契約内容を破ろうとする人が本当にたくさんいます。もちろん、契約書にサインしている限り圧倒的にこちらが有利なので本格的に訴訟に発展したことは幸いながらありませんでしたが、やはりそれだけ契約書の重要性が高いといえます。
6. メール
日本では、ミーティングを重要視するのと同じように、メールよりも実際に声を聞くことのできる電話に重きを置いているように感じます。こちらではよっぽど急ぎでない限り、やはりメールが中心です。効率的であることが一番の理由ですが、他にも前述の訴訟問題にも関わりがあり、というのもメールであれば記録として残るので訴訟内容の証拠として使えることができるからです。
7. 意思決定
これはクライアントが企業の場合ですが、アメリカは意思決定がスピーディです。日本企業では一般的に、下の役職から順に上へと意思決定がされていきます。その都度デザイン修正があったり、会議があったり、補足資料を用意したりと、最終OKが出るまでにかなりの時間と労力が費やされます。アメリカでは社員にも決定権を託してある会社が多いため、意思決定のプロセスが速いです。
8. 自負心
「これをできますか?」と聞かれたとき、「たぶん大丈夫です」と答えてしまうと自信の無さと捉えられて、仕事に繋がりません。正直100%の自信はなくても、自信過剰気味で対応します。それが故に気をつけなければいけないことといえば、アメリカのフリーランサーを雇う側になった場合、出来ないことでも出来ると言ってくる可能性が高いので、具体的なポートフォリオや専門的な質問をすることによって見極める必要があります。
9. 信頼関係
日本では、人と人、会社と会社との信頼関係というものがビジネスにおいて非常に大事で、だからこそそれを築くのにとても時間がかかりますし、一度築いた関係は少々のことではビクともしません。対してアメリカはやはり合理的なので、たとえ以前にプロジェクトで大成功を収めていようが、たとえ何らかで個人的にお世話になっていようが、他にいいデザイナーが見つかれば、いとも簡単に移ってしまいます。薄情のように感じられますが、だからこそ誰にでも努力をすればチャンスがあり、自分から離れたクライアントも、また努力をすることによって取り戻すことも可能です。
10. 専門性
アメリカは専門性を重んじる一方、日本の社会では総合力といいますか、何でもそつなくこなせる人が重宝がられるイメージがあります。会社内で社員を異動させるジョブ・ローテーション制度が多く取り入れられているのもその理由の1つかもしれません。アメリカでは、「何でもそつなくこなせる」ことはあまり強みではありません。より専門性を求められるので、例えばデザイナーが、プラスになると思って「コピーライティングや校正、プログラミングもできます」とマルチぶりをアピールしても逆効果になることがあります。