Image from sva.edu

今から16年も前の話になりますが、私は高校卒業後に地元愛媛からニューヨークに移りました。本場ニューヨークでデザインを学びたいと思い、高校在学中に本やインターネットで情報を集め、志望校をスクール・オブ・ヴィジュアル・アーツ(School of Visual Arts、通称SVA)とプラット・インスティチュート(Pratt Institute)の2校までに絞りました。ニューヨークにある美術大学といえば、もちろん他にもたくさんありますが、主にSVA、プラット、FIT(Fashion Institute of Technology)、パーソンズ(Parsons School of Design)、クーパー・ユニオン(Cooper Union)の5校が代表格の印象があります。

私が専攻希望だったグラフィック・デザイン科はこの5校全てにあったため、何を基準に選べば良いかわからず、相談できるような知り合いもいなかったため、とにかく自力でリサーチを続けました。そして当時の情報によって、それぞれの学校がより力を入れている分野が以下であることがわかりました:

SVA(私立):グラフィック・デザインやイラストを含む平面のデザイン
プラット(私立):建築や工業デザインを主とする立体のデザイン
FIT(州立):ファッション
パーソンズ(私立):ファッション
クーパー・ユニオン(私立):他4つに比べ、よりアカデミック

もちろん学費や入試要項、ネットから得られる学内や在学生の雰囲気を考慮しつつ、やはりグラフィックが強いSVA、そして立体にも幾分興味があったためプラット、この2校を選びました。

当時私は英語もあまり喋ることができず、何から何まで手探り状態でした。TOEFLはなんとかクリアしたものの、大学願書の書き方すら正しいかどうかわからず、必須であったポートフォリオに至っては、それが何かさえもわからなかったほど。もともと絵を描くことやデザインをすることは好きだったため、過去に作ったことのあるものや、新規にデッサンをしたりしてポートフォリオを作成しました。願書がちゃんと受理されたかどうかの知らせもないため、拙い英語で電話で問い合わせたことをぼんやりと覚えています。

幸いにも両校から合格通知をもらい、第1志望であったSVAに決め、入学直前に渡米。私のニューヨークでのアート学生生活が始まりました。

最初の1年は基礎コースで、専攻に関係なく油絵や彫刻などのファイン・アートのクラス、そして美術史などが主でした。2年目から漸く専門となるグラフィック・デザインのクラスが始まったのですが、このときに選んだ「ベーシック・グラフィック・デザイン」のクラスで、私のニューヨークでのデザイナー人生の将来を大きく決める出会いがありました。

ベーシック・グラフィック・デザイン、つまりグラフィック・デザインの基礎を学ぶクラスは、10以上もいる先生の中から1人を選ばなければならなかったのですが、私がSVAを選んでよかったと思う大きな理由の一つが、SVAの先生のほとんどが、現役のクリエイターであるということ。つまり、先生方は教員であることが本業ではなく、自分のデザイン事務所を経営していたり、代理店でクリエイティブディレクターをしていたりして、その時間の合間にSVAで講師をしているのです。よって生徒は、「学校で学ぶデザイン」ではなく「実際に社会で通用する生きたデザイン」を学ぶことができます。

よって、ベーシック・グラフィック・デザインのクラスは、先生本人のデザイン作品やこれまでの経歴、現職などを考慮しながら決めていきます。

私も数名まで絞り、他の生徒がするようにそれぞれの第1回目のクラスを受け比べました。そしてその最初の印象で「これだ!」とピンときたのが、後に私のメンターとなるステイシー・ドラモンドのクラスでした。彼女のプレイフルかつ力強い作品はもちろん、彼女のパワフルでありながら女性らしいしなやかな振る舞いまで、全てに置いて強烈な印象を受けたのを覚えています。

最初の印象通り、彼女のクラスは本当に刺激的で楽しくて、とても大変でしたがやりがいのあるクラスでした。内容としては、毎週課題を出され、それを次の授業までに仕上げ、クラスでプレゼンをし、クラスメートと批評し合うというものでした。そしてステイシーも私の作品を大きく買ってくれ、それが私の初めてのデザイナーとしてのフリーランス・プロジェクトに繋がることになりました。

ステイシーは、もともと大手レコード会社で長年クリエイティブ・ディレクターをしており、私がクラスを受けていた当時は既に辞めてフリーランスをしていました。彼女の夫であるジェフリーが当時MTVのクリエイティブディレクターをしていたため、MTVの仕事がほとんどでした。そして私がクラスを受けていたときにステイシーが抱えていたプロジェクトの1つが、タイムズスクエアにあるMTVの顔ともなるウィンドウ・グラフィックのデザインでした。

もちろんそんなことは知らず、私はクラスの課題の一つでイラストを取り入れたデザインをプレゼン、そしてそれをステイシーが気に入ってくれ、そのMTVのプロジェクトのデザイナーとして抜擢してくれたのでした。教員が現役クリエイターだからこそ起こりうること。私はもちろんそれはそれは嬉しくて仕方なく、興奮気味でした。今となって考えると、最初の仕事がそんな規模の大きいプロジェクトだとプレッシャーで押し潰されそうだと思うのですが、当時の私はそれすらも理解できないくらい若く無知だったのです。

長くなってきたので、続きはその2に。