【前編】に引き続き、残りの4つを書きます。
5. 専門でないことは専門の人に任せる
「3. 値段交渉は人に頼んでみる」と重なりますが、デザインというあなたの専門以外のことは、できるだけそれぞれの専門の人に任せましょう。例えばフライヤーの仕事依頼がきて、「コピーライティングや校正、イラストや写真も必要なんですがまとめてお願いできますか?」と言われたら、「できます」と引き受けるデザイナーが多いのではないかと思います。そして、全部自分でやろうとしてしまう人も少なくないのでは。どれもなんとなくはできてしまうので、一応形にはなりますし、早く終わってクライアントもそこそこ喜ぶでしょう。けれどデザイン以外はあなたの専門ではありません。なんとなく仕上がったとはいえ、あなたのコピーライティングや写真はプロから見たら一目瞭然でしょう。せっかくデザインが良くても、それでは台無しです。
それぞれのプロに任せることでそれだけやりとりの手間もかかりますし、その分見積りを少し上げたとしても、実作業は分担されるので当然あなたの取り分も減ります。けれどそれでも自分の作品だと自信を持って見せることができるクオリティの高いものを作る方が、長い目で考えると重要です。さらに、プロジェクトに最適のチーム編成をし、それぞれにアサインし、ディレクションを出すというのはアートディレクターの仕事。アートディレクターとしてのスキルも磨くことができます。さまざまなプロと仕事をすることで人脈は広がり、デザイナーとしてかけがえのない資産となります。
6. 質問をする
日本人のデザイナーの方は、あまり質問を多くしません。本当に十分理解していて質問がないのかもしれませんが、たくさん説明をしなくても意を汲むことができるのが優秀なデザイナーというイメージがあるのかもしれません。行間を読むことが美徳とされる日本ならでの考え方でしょう。けれど実際に私たちが日本人クリエイターの方に(この場合はイラストレーターでしたが)仕事をアサインした際、ディレクションを慎重に共有し、彼女も1つも質問がなかったので十分理解しているのだと認識しましたが、仕上がったデザイン案がディレクションと大きくずれていたことがありました。もちろん私たちの説明が足りなかったのかもしれないと反省しましたが、ほんの些細なことでもいいので疑問点や不明瞭な点があればプロジェクト前でも途中でも確認してもらえれば、このミスコミュニケーションは避けられたかもしれない、と思ったのも正直な気持ちです。
7. 自信を持つ
依頼した仕事のデザイン案があがって見せてくれる時に、「ちょっとこの部分大きすぎますかね」「ここの色合いは気に入るかどうかわからなかったのですが…」「ちょっと難しくてあまりいいのができなくて」と、ランチセットのサラダのように自信の無さをセットでプレゼンするデザイナーの方がいます。「そうですね、大きすぎますね」「そうだな、他の色合いがいいかな」「うん、別の案をお願いします」という返事が来るのを待っているようなものです。
デザイナーは、クライアントの問題解決をサポートするチームメイトです。『お客さま』といった上下や強弱の力関係があるのではなく、お互いフェアな力関係でお互いを尊重しながら、素晴らしいものを作り上げていく仲間です。
自信を持ってください。あなた自身が、自信がないと思うデザインを、一体誰が自信を持って「良い!」と言えましょう。クライアントは、数あるデザイナーの中からあなたを信頼して仕事を依頼しています。もっと自信を持ってください。
8. なぜビジネスにデザインが重要なのかを自分の言葉で表現する
前編で触れましたが、アメリカでは経営においてのデザインの重要性が十分理解され、ビジネスを成功させるための大事な要素であることが認識されているので、デザイナーへの高いリスペクトを持って仕事を依頼します。日本でもこの理解が浸透すればデザイナーの社会的地位が上がりますが、そのためには気の遠くなるような労力が必要となるでしょう。けれどあなたがあなたのクライアントを理解させることはできるかもしれません。もちろんそれはあなた自身のためになるのと同時に、草の根運動ではありませんが、デザイナー1人1人がそれぞれのクライアントを理解させることができれば、日本全体のデザイナーへの意識、デザインへの考え方が少しは変えられるのではないでしょうか。
そのためには、なぜビジネスにデザインが重要なのかを、本やネットで読んだ内容をそのまま復唱するのではなく、きちんと自分で理解して、自分の言葉で表現できるようになることが大事です。デザインは小手先のテクニックではありません。表現することは、課題解決というデザインの大きなプロセスのあくまで1要素。その全プロセスがいかに大事で、クライアントのビジネスにどんな影響を与えるのか、ぜひあなたの言葉で考えてみてください。
以上、偉そうに書いていますが、どれも私たち自身実際に通った道です。
日本のデザイナーの方々が、自分らしくクリエイティビティを発揮し、それを尊重する人たちと気持ちよく仕事ができる日が来ることを願って。