夫のGiorgioがJoel Deanさんと出会ったのは、Giorgioがまだ大学生の頃。新しく引越した先のウェストビレッジのアパートの上階に住んでいたのが、Deanさんとその長年のパートナーであるJackさんでした。
出会ったばかりの頃から、彼らの知的な雰囲気が印象的だったそうですが、衝撃を受けたのは、上階にある彼らのアパートに招待されて訪れたときだと言います。それまでに見たこともないような美しい空間と、それ以上に洗練された彼らの暮らし方、生き方に、Giorgioの言葉で言う’blown away’、つまり圧倒されたのだそう。この頃からGiorgioとDeanさんは親交を深めていきましたが、この時はまだ、将来2人で店を始めることになるとは知る由もありませんでした。
当時、Deanさんは出版社に勤めていました。愛書家であるのはもちろん、クラシック音楽評論家として執筆もし、彼自身もピアノを愛してよくGiorgioにも披露していたそう。クラシックの中でも特にオペラに精通し、同じ演目でも指揮者違いや歌手違いでいくつものレコードをコレクションし、またそれを聞き分ける耳を持っていました。Giorgioのオペラ好きも、もちろんこの頃のDeanさんの影響によるもので、それが今私にも連鎖しているわけです。
Giorgioは、彼らから多くのことを学びました。「高校生まで育ててくれたのは親だが、それ以降の自分、今の自分を育てたのはJoelとJackだ」と断言しています。
そしてまた、Giorgioが彼らに教えたこともあります。イタリアのものを中心とした食材や料理です。Giorgioは父親がイタリア食材の輸入業をしていたこともあり、知識も豊富で手に入れる手段もありました。当時まだニューヨークでは見かけなかったもの、例えばスモークモッツァレラを使った簡単な料理を出した時は、それは珍しがって喜んでくれたと話しています。
大学を卒業した後、教師を経て、Giorgioは小さなチーズ屋をソーホーに開店させました。Deanさんは自分のことのように喜んでくれたと言います。そしてそのチーズ屋にDeanさんが通ううちに、もっといろんな美味しい食材をニューヨークの人たちに紹介すべきだと話し合うようになり、こうして2人はDean&Delucaをオープンさせたのでした。
Deanさんは、Giorgioにとってビジネスパートナーである以上に、生涯最高の親友で、メンターでした。
Deanさんが他界されたのは、私がGiorgioに出会うより少し前でした。残念ながら、私はDeanさんにお会いしたことがありません。私以上に、そのことをGiorgioが非常に残念がっており、今でもよくそう言います。恐れ多い話ですが、Giorgioは、私とDeanさんに似た部分があるのだとも話してくれます。
長くなりましたが、今日紹介するレシピは、そんなDeanさんがGiorgioに作ってくれた朝ごはんです。大学生だったGiorgioが、ある日風邪を引いて家で休んでいる時、Deanさんが作って上階から持ってきてくれたのがこの料理。料理と呼ぶには大げさなほどのごくごくシンプルな朝ごはんですが、そんな経緯が故にGiorgioにとってとても思い入れのあるもので、今でもGiorgioがよく作ってくれます。
[Photos and styling by Hitomi Watanabe Deluca]