先に答えを言います。必要です。大いに必要です。

以前はそうではありませんでした。今よりもずっとデザイン事務所の数が少なかったというのもあり、デザインのクオリティが良ければ、専門性がなくてもそれなりにビジネスとして成り立っていました。

けれど時代は変わり、今は世界的にデザイナーやデザイン事務所が飽和状態。テクノロジーの進化によって物理的な距離の差は縮み、クライアントは選べるデザイナーの選択肢も拡大しました。数が増えただけではありません。デザインの全体的なクオリティも上昇しました。これは、ネットを介して様々なデザイナーの様々なデザインが瞬時に発信され、共有できるようになったからだと思います。みんながみんなを刺激し合えば、質が上がるのも当然です。

インターネットがここまで普及するまでは、デザイナーであれば誰もが知っているようなカリスマデザイナーが世界中に何人かいて、それぞれ独特のスタイルを持っていたため、作品を見ただけでどのデザイナーかわかるほどでした。前述のように不特定多数の人の不特定多数のデザインがリアルタイムで常に見られるようになった現在は、高いクオリティを維持したまま、他とは区別される独特なスタイルを持つというのはごく稀です。成功しているデザイン事務所の作品は、ビジュアル面だけを見ると、国に関係なくどこも非常に類似するようになってきたと感じます。悪いことではありません。自然な流れです。

それらデザイン事務所が成功しているのは、質の高いデザインを提供できるからではありません。質の高いデザインを提供するのは大前提ですが、それだけではこの飽和状態で生き抜くことはできません。そこで必要となるのが、専門性です。

一般的に、クリエイターは専門性を持つことを嫌います。クリエイターという、型にはまらず新しく独創的な考え方をするべき立場とは裏腹に、「専門性」という型で括ってしまうという考えがあるからです。私も全く同じように考えていました。クリエイターとして常に新しいことにチャレンジしたいし、どんな方向性のプロジェクトでもいいものが作れるマルチなデザイナーになりたい。そして専門性を持つということは、それを諦めること。そう思っていました。

ある特定の業種に絞るという専門性が、最も明快で一般的ではありますが、何をベースとした専門なのかというのは、他にもいくつか種類があります。それら種類や可能性についてはまた別の機会で説明するとして、専門性を持つことのメリットを挙げてみます。

    • 専門性を設けることで、リーチすべきターゲットも絞られるため、効率よく新規開拓ができる。
    • クライアントがデザイナーやデザイン事務所を複数から選ぶ際、その専門性が決め手になり得る。逆に、専門性がなければ決め手がない。
    • その専門性をベースに企画書を作るため、企画書がより精巧に、時短で作成できるようになる。
    • 多方面デザイナーにはできない、その専門性を活かした提案ができるようになる。
    • 専門性を強みとした料金設定ができる。
    • デザイナーやデザイン会社を探している人がネット検索する際、「デザイナー 〇〇〇〇」と別のキーワードと合わせて検索する可能性が高く、ヒットしやすい。

「専門性」は、可能性を狭めてしまうものだと思えば、そうなります。でも専門性を持って初めて作り出せるものもあります。「専門性」が壁だと感じるのであれば、その壁の中で解決解決を見つけるために、よりクリエイティブにならざるを得ません。視点を変えれば、可能性は広がるほうへ方向転換をします。

私たちHI(NY) designも、最初は専門性を見出せなくて悩んだ時期がありました。私たちは、ある特定の業種に絞った専門ではなく、別の角度で専門性を持って活動をしています。また近いうちに、その他の専門性の種類と合わせて説明できればと思います。