ソーシャルデザインとは何か。
「社会の中でポジティブな変化を生み出すことを目的とするデザイン」
「デザイナーとして、社会における役割と責任を意識したデザイン活動」
そういった捉え方をする方が多数だと思います。
ソーシャルデザインという言葉が世界で浸透して久しく、上記のような説明で一般的に理解されているにも関わらず、「ソーシャルデザイン」の定義を明確にしようとする議論が、世界中で一向に止む気配がありません。「ソーシャル(社会)」と「デザイン」のそれぞれが多義的な言葉で、抽象的。その2つが合わさることで、その定義も無限のように感じてしまうのも仕方ありません。
英語表記でSocial designですが、ほぼ同義の言葉が何十個とあります。以下はその一部。
• Creative placemaking
• Design activism
• Design for good
• Design for social change
• Human-centered design
• Humanitarian design
• Social innovation
• Public-interest design
• Situation-centered design
• Social impact design
• Socially responsive design
• Transformation design
これほど言い方を変えられるほど、ソーシャルデザインは定義することが難しく、見方を変えればそれだけ可能性の広いものだと捉えることができます。
日本でもSDGsの実現が日常的活動の延長線上に位置しつつある今、自分もソーシャルデザイナーになりたいと思っている若いデザイナーや学生も少なくないと思います。世界がどんどん優しい方向へ進まなければいけない中、デザインというクリエイティブな思考とプロセスがこれまで以上に必要とされています。ソーシャルデザイナーとして社会のために何ができるのか、改めて確認すべく、ソーシャルデザインとは何なのかを再考しました。
まずはソーシャルデザインの種類を8つに分けて考えてみます。
1. 困っている人たちにデザインという形で手を差し伸べるしくみ
最も明快でイメージのしやすいソーシャルデザインです。ソーシャルデザインを語る上で欠かせないデザイナー、ヴィクター・パパネックは、デザインが経済的そして文化的なエリートが享受する贅沢となっていることを指摘しました。高齢者や障がい者、貧困者、マイノリティなど、あらゆる理由で社会的なハンディキャップを抱えた人々こそが、生活するために必要とするサービスや資源を得ることを保証するためのしくみをクリエイティブに作り出したり、またそのサービスや資源そのものをデザインの力で生み出します。
より生活しやすくなるための革新的なプロダクトデザイン、それをより多くの人が効率よく使えるようにするためのサービスデザインやシステムデザイン、それをより多く広めるためのコミュニケーションデザインなど、様々な角度から関わることができます。
2. 社会活動をする団体のためのデザインや、地域デザイン
社会活動そのものはそのプロフェッショナルに任せ、デザイナーはデザインというプロフェッションでサポートをするという構成です。活動やビジョンを正しく伝えたり、寄付を募りまたその仕組みを作るなど、よりブランディングの力が発揮されます。ここでは、デザイナーは新しい商品やサービスの革新を起こすのではなく、すでにある革新的な技術や知識を見つけ出し、新しい活用法としてその技術や知識をよりサステイナブルなものとしてデザイン、そして問題解決することを求められます。
3. 政策デザイン
デザイン思考への関心の高まりとともに、日本の公共セクターでもデザインを政策立案に活用することが広まりつつあります。政策のデザインは、他のソーシャルデザインと違って利益を上げる必要が全くないため、特殊な存在ですが、デザイナーならではの「共感できる」という視点、つまり色々な立場の目線を想像するという力で社会的なリサーチをし、それを元に自由でクリエイティブな思考で政策形成のプロセスに取り入れることが政策デザインの強みだと思います。
4. クライアントワークを通してのソーシャルデザイン
ソーシャルデザインはその性質上、商業デザインとは引き離したプロボノと捉えられることが少なからずあります。勤務先の仕事やクライアントワークは経済活動とし、それ以外の時間や労力をボランティアとしてソーシャルデザインにあてるという方法です。間違った方法では決してありませんが、ソーシャルデザインは持続可能となって初めて意味のある活動なので、続くしくみを作ることが重要です。この仕組みについてはまた別のトピックなのでここでは触れませんが、私たちはクライアントワークを経済活動と割り切ってしまう必要はないと考えています。
これは私たちのブランディングのプロセスの大事な部分なので詳しくはまた別の機会に書くとして、クライアント、つまり経営者やブランドオーナーの方は皆さん、それぞれ内容や規模は千差万別であるにせよ、必ず思い描く未来の社会というものがあります。それは一見、ブランド経営とは関係なさそうなもの、または実際に関係ないものもありますが、それを私たちは、ブランディングの大切な一要素として、実現するための仕組みを一緒に考えます。
【後編へ続く】
次回は残りの4つのソーシャルデザインと、これからのソーシャルデザインについて考えたいと思います。