ブランディングをする上で、「良い」デザイナーとは?【6つの要素】

ブランディングをする上で、「良い」デザイナーについて考えました。デザイナーに求められる6つの要素について書きます。

1. クライアント/ブランドオーナーとラポール、つまり信頼関係を築けるデザイナー

仕事をしてきたなかで、いまでも一番難しいな、と感じるのがクライアントとのコミュニケーションです。デザインは、コミュニケーション・アーツとも呼ばれ、「コミュニケーション」が重要な鍵となります。その基盤となるのがクライアントとのラポール、信頼関係を築くことです。

信頼関係を築くには、相手に寄り添ったコミュニケーションを取る努力が必要で、コミュニケーションがうまく取れないと、何を求められてるのかわからない、何をやってもうまくいかない、という壁にぶつかってしまいます。とはいえ、人と人とのことなので、お互いの相性というのもあります。どんなに努力をしても、合わない時は全てが否定的になってしまい、負のスパイラルに陥ってしまうことも。そうならないためにも、最初の時点で相性を見極め、仕事をする上でコミュニケーションが難しいと思えば、お断りをするという勇気もデザイナーにとって必要かもしれません。

デザイナーに求められるのは傾聴する力と共感する力。愛情を持ってポジティブに接し、そして相手が伝えたいことの真意を勝手に解釈したり、誘導したりしないようにすることが大切です。

2. 固定観念や自分の価値観にとらわれず本質と課題を見極められるデザイナー

人口の98%が日本人で、その大半が同じ言語を使い、同じ教育を受ける日本。メディアを含めさまざまなことが国内だけで完結する。こんな環境で固定観念にとらわれないようにするというのは結構難しい話です。

ブランディングには、クライアント/ブランドの本質と課題を見極めるという大切なプロセスがあり、ここがしっかりとしていないと、ブランド全体の基盤作りができません。本質と課題を見極めるには、自分の価値観を一旦忘れること、先入観を持たないこと、常識を疑うことが必要です。インハウスのデザイナーさんにも当てはまることで、社内で当たり前だと思われていることが、良し悪しに関わらず、社外から見れば素晴らしい強み、逆に弱みであることもあります。

3. 信頼関係をもとに唯一無二の「らしさ」を引き出せるデザイナー

私たちの著書『ニューヨークのアートディレクターがいま、日本のビジネスリーダーに伝えたいこと』でも合言葉のように繰り返しましたが、ブランドの基礎となる部分は、そのブランドの「らしさ」です。ブランドオーナーや従業員または商品やサービスの持つ強みや個性、大切にしたいと思っている理念、社会的な存在意義などといった、その会社のコアバリューが「らしさ」であり、他社と比較した相対的な価値ではなく、その会社ならではの唯一無二の絶対的価値です。

この「らしさ」というのが、誰から見ても明白である場合ももちろんありますが、実はブランドオーナー自身も気づいていないようなことだったりもします。また明白であっても、その表現方法によって捉えられ方が違ってきたり、従業員一人ひとりが違う解釈を持っていることもあり、状況はさまざま。これを上手に引き出し、皆さんが同じ方向で理解できるように言語化するのも大事なデザイナーの仕事です。

4. オーディエンスや時代、市場を偏りなく把握できるデザイナー

オーディエンスや時代、市場を偏りなく把握するには、2.と同様、固定観念 や自分の価値観にとらわれず、また先入観や事前情報でバイアスをかけないことが重要です。情報感度を高め、日本だけではなく世界の関心事に敏感でなくてはいけません。

ブランドのターゲット・オーディエンスを設定する際には、自分がターゲットであろうとなかろうと、自分の想像だけで決めず、きちんと実際にターゲットと接して理解することが大切です。

5. 柔軟な思考でクリエイティブに問題解決ができるデザイナー

3.でクライアントの「らしさ」を引き出しましたが、プロジェクトの課題の解決方法や、そのクライアントの「らしさ」を最大限に表現するために必要となってくるのが、デザイナー自身の「らしさ」です。クライアントの「らしさ」が唯一無二の価値であると同時に、デザイナーのクリエイティビティも、経験や感受性、感性など、その人のオリジナリティから生まれるもの。なぜなら、世界中どこを探し ても、自分と全く同じ考え方や感じ方をし、全く同じ経験をして生きてきた人はいないからです。ですので、その唯一無二の存在から独自のやり方で出てきた解決方法は、絶対的に差別化された誰にも真似のできない資産なのです。

そのデザイナーの「らしさ」をより柔軟でクリエイティブにするために、洞察力や分析力を高め、経験値を高めて想像力を豊かにしていくことが大事です。そして何より大切なのは、「自分らしく」あることです。

6. ブランドのDNAをビジュアル化して、伝わるかたちに落とし込むことができるデザイナー

1.から5.でじっくり築き上げてきたものを、ようやくビジュアルという形で表現しますが、1.から5.がしっかりできていればいるほど、自然と生まれてくるビジュアルが腑に落ちます。

デザイナーが、マーケターやコンサルタントと違うのは、最初からこの最終アウトプットをイメージしながら、1.から5.の土台作りができること。最終形を常に意識しながらブランドのDNAを作り上げ、そしてターゲット・オーディエンスや社会に正しく伝わるかたちに、魅力的に表現できることが重要です。

 


以上6つ全てが、ブランディングをする上でデザイナーにとって大事な要素ですが、これだけ多岐に渡る内容全てをカバーするというのは簡単なことではありません。私自身もこの中で得意不得意な分野があります。自分の弱い分野もきちんと認識し、それを補える人とチームになって活動するという選択を取ることも、大事な要素の1つかもしれません。