会社設立と苦悩

HI(NY) designを設立したのは2008年で、当時私とIkuはまだブランディング・エージェンシーに勤めていました。忙しかったため書類等は全て弁護士に任せ、ニューヨーク州法人としてLLC形態で登録。あっという間に立ち上がりました。

正直、設立後最初の数年はなかなか会社を思うように軌道に乗せることができず、辛い時期もありました。MTVでのポップなデザイン、代理店でのハイエンドなブランディングという全く方向性の違った会社で積んできた経験から、デザイン会社としては珍しく幅の広いデザインを提供できたので、プロジェクトはほぼ常に複数同時進行でいつも忙しい。それなのに会社はうまくいかない。これには2つの原因がありました。

私とIkuは共にクリエイター。様々なプロジェクトに関わってきた経験から、デザイナー/アートディレクターとしてはそれなりに自信もあったのですが、器用貧乏と言いましょうか。なまじ幅広いデザインができて、ありがたいことにどの分野でもクライアントの皆さまにご満足いただけていたので、会社としての『強み』を絞りきれずにいました。これがうまくいかなかった原因の一つで(これについてはセルフ・ブランディングのお話として、また別の機会に書きたいと思っています。)、もう一つは長い間適正価格をつけられなかったことです。

どんなクリエイターも、必ず一度はぶつかる壁だと思うのですが、クリエイターは自分自身が商品であり、商品には値段をつけなければいけません。つまり、自分自身の価値を、値段というはっきりした数字で評価しなければなりません。一般的に私たちの業界では、受賞歴の多いデザイナーになってくると、それだけ料金も上がっていきます。私たちも少なからずいろいろな賞をいただいてきたので、それに見合った価格を付けなくてはいけない。しかしながら日本で生まれ育った私たちにはこれが簡単なことではなく、会社を軌道に乗せられない大きな理由の一つでした。

そう悩んでいるときに、Giorgioに言われたことがあります。「自分の能力に見合った的確な価格をつけれないということは、自分の能力への自信の無さの表れ。デザイナーとして自信があるのなら、それに見合った価格を決めなさい。適正な価格をお客さんに提示し、それが高いと相手が思えば、それはつまり君たちの能力を評価していないということ。君たちの能力を評価していない人と仕事なんてしたいかい?」

この的確なアドバイスが、少なくとも私の気持ちに大きな変化をもたらしました。

去年オープンさせた、HI(NY) design京都オフィス

クライアント

よく聞かれることの一つに、「どうやってクライアントをみつけているのですか?」という質問があります。会社設立当時は、それまでに勤めていたMTVや代理店からの仕事、そして知人友人からの依頼がほぼ全てでした。そしてその方々がまた別の方を紹介してくださり、その輪がどんどん広がり、本当にありがたいことに、今でもその繋がりからほぼ全てが成り立っています。そしてMTVと代理店での就職は、ともに私たちの通ったニューヨークの美術大学School of Visual Arts(SVA)からの繋がりで得たものでしたので、SVAに通ったことが、今の私たちの大きな基盤となっています。

コカコーラ

これをアメリカ生まれの人に話すと驚かれるのですが、私たちにとって主要クライアントの1つであり、1番長くお付き合いさせていただいているクライアントの1つに、米国コカコーラがあります。コカコーラといえば、アメリカ人にとっていわゆるコーポレーションの代表格であり、アメリカ企業の象徴的存在。そんな大企業がなぜ私たちを選んでくれているのか。これも実はMTV時代からの繋がりによるものです。当時アートディレクターとして私たちの直属の上司であったディクラ・ポランスキーが、現在コカコーラでクリエイティブディレクターをしています。ディクラにはMTV時代からとても可愛がってもらい、MTVでもコカコーラに移ってからも素晴らしいプロジェクトにたくさん参加させてもらいました。ディクラも私たちと同じ女性であり移民。そして彼女も妻であり母。そんな彼女が、今ではコカコーラのクリエイティブ部門でトップから2番目として活躍されています。私が憧れ、尊敬する女性の一人です。

コカコーラとのプロジェクトに関しても、また別の機会に詳しく紹介できればと思っています。

コカコーラのボトル誕生100周年記念に依頼されデザインしたポスター

HI(NY) designの強み

HI(NY) designの強みは、「ブランディングを主とした、女性の視点ならではのトータル的なデザイン」を提案できることです。私とIkuは、日本で生まれ育ち、そして20年近く暮らしているニューヨークでデザインとブランディングを学びました。日本の伝統的な美を敬い、ニューヨークの斬新で自由なクリエイティビティを毎日肌で感じ、女性ならではのしなやかな発想で、ブランドを作り上げるお手伝いをしています。

近年日本でのプロジェクトが増え、グローバル化を目指した日本のクライアントが多くなってきたことを嬉しく思うと同時に、日本での国際化における問題点もはっきりと見えてきました。これは日本の中だけにいるとなかなか見えないもの。私たちHI(NY)はチーム全員が女性であることで消費クラスタの大半を占める女性の視点と、世界中で様々な異なる文化のターゲットオーディエンスに向けたブランディングをしてきた経験から、日本が世界中の人々からもっと愛され、また日本の皆様からも喜ばれるブランドを構築していくお手伝いができれば、これ以上に嬉しいことはありません。

ニューヨークにオープンしたブックストアカフェShakespeare&Co.のブランディング