Black Lives Matter

黒人男性のジョージ・フロイドさんが、白人警官に膝で首を押さえつけられ窒息死するという痛ましい事件が先月起こりました。

「息ができない」とフロイドさんが繰り返すこの動画は、約6年前にニューヨークでやはり白人警官に窒息死させられた黒人のエリック・ガーナーさんの事件を鮮明に思い出させました。今年2月には、ジョギング中だった黒人青年アマード・アーベリーさんが、白人の元警官とその息子によって私人逮捕を装って射殺されました。親子を庇う警察の対応と隠蔽が原因で、事件の動画が公になるまで約3ヶ月間逮捕者が出ませんでした。3月には、捜査令状を持って押し入った警察によって黒人女性のブレオナ・テイラーさんが射殺されました。

フロイドさんが殺されたのと同じ日、NYのセントラルパークでは、ルールを守らずにリードを外して犬の散歩をしていた白人女性に対して、野鳥観察をしていた黒人男性が穏やかに注意をしましたが、それを聞き入れず、やがて逆切れをした女性が「脅されている」と警察に通報するという、非常に不快な動画が拡散され、怒りの声が広がりました。

きっかけはフロイドさんの事件とはいえ、挙げればきりがないこのような忌々しい事件と繰り返される黒人への差別に対して、アメリカ各地で抗議活動が広がっています。

アメリカの社会問題と歴史を語る上で避けて通れない人種問題。アメリカで子供を育てる親にとって、子供にいつどのように教えるべきかというのは、人種に関係なく誰もが抱える複雑な問題です。

事件は大きく報道され、家にいても外からデモの音は常に聞こえ、当然夫婦間の会話トピックとなり、私たちの怒りや不安を、5歳である息子が感じ取っているかもしれないと思いました。これまで人種問題について話すタイミングを見計らっていましたが、もしかしたら今がその時なのかもしれないという思いに駆られ、息子を連れて抗議デモに参加した上で、彼らが何を訴えているのか説明しようと思いました。そのためにプラカードも作りました。けれど夫は反対しました。まだ早すぎると。

アメリカで生まれ育っていない私にとって、アメリカに何年いようが、奴隷制の歴史をどれだけ学ぼうが、根本的な感覚は理解することができません。自分には持ち合わせていない感覚をもとに、人格形成に大きな影響を与えるあまりに大事で複雑な問題について子供に教えるということに、ずっと不安を覚えてきました。正しいタイミングで正しく伝えないと、逆に「人種差別を生み出す」かもしれない。そんな不安が重なって、気持ちに焦りが出て、今が絶好のタイミングだと勘違いしてしまったかもしれないと思いました。作ったプラカードは一旦しまい、冷静になって考えました。

まず、同じ年頃の子供がいる親、そして少し学年が上の子供がいる親の知り合い何人かに相談しました。

まず4歳の娘さんがいる白人の友人は、まだまだ教えるには早すぎると考えているのとは裏腹に、黒人の彼女の夫は、すぐにでも教えたいと思っているようでした。それはやはり、彼自身が人種差別の対象だったからだそう。この問題に対して2人で常に話し合っているとのことですが、エラ・フィッツジェラルドやローザ・パークスなど、歴史上の偉大な黒人の伝記を含む絵本シリーズ「Little People, Big Dreams」をたくさん読んで聞かせてあげていると話していました。

夫婦ともに白人の友人は、やはり5歳の娘さんにはまだ早すぎると考えていました。彼らは、娘さんに「Mister Rogers’ Neighborhood」シリーズを積極的に見せていると話していました。これは、2001年まで30年以上愛された、アメリカの国民的子供番組。この中で警官役として出演したフランソワ・クレモンズは、子供テレビ番組にレギュラー出演した最初の黒人俳優と言われています。人種差別の廃止運動まっただ中、公共プールでは黒人の入浴が認められていなかった時代に、番組のホストであるフレッド・ロジャースが、自分の足を浸けている簡易プールにクレモンズを呼んで一緒に足を浸けるよう促したエピソードが非常に有名です。ロジャースが「色の壁」を壊し、またそれを子供たちに自らの行動で伝えました。友人は娘さんに、その時代背景はまだ教えずとも、全ての人に対する思いやりと愛情で溢れたこの番組を見せているのだと話してくれました。

また別の友人は、夫婦ともに中国系アメリカ人、つまり有色人種です。6歳と3歳の息子さんが小さい時から人種差別についてできるだけ話す機会を設け、子供たちがそれぞれ3歳、0歳だった2017年から、抗議デモにも一緒に参加しているとのことでした。

10歳と8歳の男の子を持つ別の友人はユダヤ系有色人種で、旦那さんは白人。これまで人種については何度も話してきたものの、それに対しての差別というネガティブな側面についてはまだきちんとした会話はしていなかったそう。今回の事件がきっかけで、zoomで行われている学校の授業で人種差別について教わったとのこと。授業後は2人ともソワソワしていたそうで、ただでさえコロナの影響で自宅待機が続き、ストレスや不安が溜まっていたこのタイミングに、この重い問題を消化しなければいけないのはあまりに重荷でかわいそうだったと話していました。同時に、家の外からはデモの音が聞こえる状態で、年齢的に会話は避けられなかったとも。下のお子さんは、「中身はみんな一緒で、外側の色の濃さが違うだけなのに。僕にはわからない!」と、明らかに本人のキャパシティを超える内容に混乱している息子さんを、心配していました。

そして衝撃的だったのが、夫婦ともに黒人のご家族。5歳の娘さんには、小さい頃から人種差別について教え、自分たちのルーツと歴史についても触れてきたそう。そしてなんと、今回のフロイドさんが警官に首を押さえつけられ苦しむ動画も見せたのだそう。アメリカで黒人として生きていくことはこういうことで、これが現実なんだと伝えんばかりに。もちろん彼らも、5歳という小さな子供にこんな残酷な動画を見せたいわけではないでしょう。けれど見せなければならないと思うほどに深刻な状況に、胸が締め付けられました。

さらに、息子の担任の先生にも相談しました。もしコロナで閉校していなければ、何かしらみんなで話し合うことになっていたと思うと話していました。そして参考になればと送ってくれたのが、神経心理学者と臨床心理士による対話を収めた動画で、人種差別と暴力のニュースに子供が対処するためのアドバイスを聞くことができました。

その他、ネット上にある専門家の記事などもたくさん読みました。当然意見はそれぞれですが、総じて「人種差別について教えるのに早すぎるということはない」という意見が多数であると同時に、年齢に応じた教育が必要であるということも強調されていました。

友人や先生、専門家の意見を踏まえた上で、夫と話し合い、人種については会話の中の自然な形で触れつつも、歴史的背景であったり、人種に基づいて人々がどのように不当に扱われることがあるのかについて話すのはまだ早すぎるという結論に至りました。

またデモに関しても、人種差別と警察の暴力に対する抗議にも関わらず、それに便乗する犯罪者がその機会を利用して暴動を起こしており、あたかも正義が悪のように子供の目には映る可能性が高く、その違いを理解するのは年齢的に難しいとも判断しました。

息子の成長具合を慎重に観察しながらの判断になりますが、先1年くらいを目処に、理解ができそうになったタイミングで少しずつ、丁寧に伝えていこうと話しました。あまり慎重になりすぎて、他の子供や大人の会話から聞こえる偏った考え方を先に息子が耳にしてしまうのだけは避けたいと思っています。そしてもし息子自身から、踏み込んだ質問をしてきた場合には、隠さず、正確に答えます。過保護になってその質問を遮ってしまうと、触れてはいけないトピックなのかもしれないと本人が思い、間違った認識を持つかもしれないからです。

息子はすでに、肌の色を含む身体的な違いが友達にあることに気付いています。それが何を意味するのか、ましてやその違いを理由に差別や暴力が不当に生まれていることは当然知りません。がしかし、子供であっても人間というのは、自分に似ているものにより安心感を覚えるのではないかと思っています。ですので、友達との身体的な違いを認識しつつも、内面・外面ともに似ている部分を探してみつけるように促そうと思います。

そして友達と「違う」部分に関して、よく「みんなそれぞれ違うということを受け入れよう」というメッセージを聞きますが、5歳には少し漠然としすぎて伝わりづらいのではと感じていました。そこで、もし息子が友達の「違い」について何か話してくることがあれば、「違うこと」の良さではなく、その友達の「違い」が持つ良さを見つけることを伝えようと思っています。例えばお友達の肌が黒いことに触れれば、「あの子の肌ってとてもきれいだと思わない?」という具合に。

未就学児は、人種の違う人とより多く接し、人種の多様な絵本や作品などに触れ合うこと、多様性を正常化させることが大事だと多くの記事で読みました。幸いにも私たちはニューヨークという多様性を象徴したような街に住み、多様性について会話のしやすい環境にいます。これを最大の武器として正しい教育を与えていきたいと思うのです。

私自身アジア人という有色人種であり、その混血である息子は、人種差別の対象となる可能性があるでしょう。人種差別について話し合っていくことは、他人に対して偏った考え方を持たないようにするためであるのと同時に、自身が差別の対象となったときに、自分の感情をうまくコントロールし、自分が経験していることに対してどのように対応すればよいのかを教えることでもあります。

そして、「私たちはみんな平等」と伝えるつもりもありません。現実はそうではないからです。でも不公平さがあっても、それを変えようと努力している人が常にいて、私たちもその一部になることができるという希望があります。最終的に息子に伝えたいのはその希望かもしれません。

フロイドさん事件に関して、オバマ前大統領が出した声明文はこのように締め括られていました:

「人種や立場に関係なく、私たち全員が協力して、偏見と不平等な扱いの歴史がもはや私たちの制度や心に感染しないような『ニューノーマル』を作り出すことが求められている。」

子供は偏見を持って生まれてくるわけではありません。親である私たちの行動が、「ニューノーマル」を作り出すための大きな鍵なのかもしれません。

 

人種や人種差別、社会運動についての教育に推薦されている絵本(英語)を年齢別にリストアップされたものがいくつかあったので、リンクを貼っておきます。
NNSTOY Social Justice Book List (PDF)
Lee&Low Books Social Activism Diverse Reading List (PDF)
NY Times These Books Can Help You Explain Racism and Protest to Your Kids
フロイドさんの事件の嘆願書を始めとする、Black Lives Matterに関する様々な活動に署名や寄付をできる場を網羅したサイトはこちらです
blacklivesmatters.carrd.co
*なお、私自身、寄付をしてしまったあとにここに書かれている内容を読んだのですが、change.orgに寄せられた寄付金は、実際に活動している人や団体に当てられるのではなく、change.orgの運営費として使用されるとのことなので、change.orgは署名をするだけで寄付はせず、必要としている団体に直接寄付してほしいとのことです。正しい寄付先のリストもサイト内に記載されています。