6月22日から、ニューヨーク市再開の第2フェーズに突入し、3ヶ月ぶりにオフィスでの業務がようやく解禁となりました。けれどもWall Street Journalによると、実際にオフィスに戻るのは全体の1-2割程度になるとのことで、残りのほとんどの会社が、早くても9月のレイバーデーからの再開を目処にしているそう。実際に私の周りでも既にオフィス通勤に戻っているという人はまだ1人もいない状況です。

私たちHI(NY) designのニューヨークオフィスも3月からリモートワークに切り替え、現在も在宅勤務が続いています。切り替えと言っても、以前から会社のデータは全てクラウド上で管理し、オンラインでのミーティングも日常的に行っていたため、インフラ的には特に切り替えは必要ありませんでしたが、それでもやはり毎日スタッフと顔を合わせて仕事をしていた環境からの転換には、慣れるまでにストレスを感じることも少なくありませんでした。

「みんな本当に仕事しているかな…」と心配になることは正直ありましたし、十分な時間を設けたつもりなのに求めていたクオリティのものが提出されなかったときは、リモートワークの難しさを感じました。けれど在宅勤務を手探り状態で始めたのはスタッフも同じであって、最初は慣れないのもみんな同じ。2週間もすれば感覚も掴め、オフィスにいるときと同じようなデザインのクオリティが同じような時間の感覚で得られるようになりました。それどころか、自由にのびのびと仕事ができるようになったせいか、より生き生きとしたデザインが上がってくるように。クリエイティビティというのは、定時内に湧き上がってくるとは限りません。集中力や生産性が高い時間帯も人それぞれ。スタッフがみんなミレニアル世代というのも重なってか、リモートワークは私たちのような会社にとってプラスになることが多いことがわかりました。

リモートの可能性を感じ始めた頃に、ふと思い出したのが、ROWEという働き方について。

ROWEとは、「Results Only Work Environment」の略で、「完全結果志向の職場環境」という働き方のこと。BestBuyの社員だった女性2人によって提唱された経営戦略で、2008年に彼女たちが出版した著書「Why Work Sucks and How to Fix it」によって注目を浴びました。その後、GapもROWEを取り入れるなどして話題になりましたが、最近は耳にしなくなっていました。

ROWEの考えでは、従業員は、働いた時間ではなく、成果物によって評価され報酬を得るべきだとされています。成果さえ出していれば、いつどこでどのように時間を使うかは個人の自由。それがROWEの発想です。このコロナパンデミックで自宅勤務の導入を余儀なくされた今、再び関心を集めています。

成功報酬という考えは個人的には好きではないのでその点は考慮しないとしても、「成果さえ出していれば、いつどこでどのように時間を使うかは個人の自由」という働き方は、私たちの会社に合った働き方だと、今回のリモートワークの実施によって強く感じました。そしてこの働き方を、無期限で取り入れることに決断しました。

まず働く場所は問いません。パリであろうが、上海であろうが、バハマであろうが、安定したネット環境さえあれば好きな時に好きなところに行っていいとスタッフには伝えました。行った先の環境がクリエイティビティに刺激を与えてくれるなら、Win winです。

そしてROWEを取り入れることによって、これまで設けていた休暇や病欠の有給システムを廃止しました。無給にする、という意味ではなく、自由に時間を采配してもらうという意味です。給与には関係なく、休暇が必要なときに取ってもらい、病気になればもちろん仕事はせずに療養してもらいます。アサインしてある仕事を仕上げてくれればそれで構わないのです。もちろん、やむを得ない事情で間に合わない状況も出てくるとは思いますが、その時はチームでサポートすれば良いだけのことです。時間の自由を渡すことで、1つ1つの仕事へのより大きな責任を持ってもらえればと思っています。

現在、社内で小さい子供の子育てをしているのは私だけですが、女性スタッフがほとんどの弊社では、将来子供ができる人も出てくるでしょう。子育てと仕事の両立がいかに大変かは、私が身をもって経験したので、スタッフには仕事と子供との板挟みになるようなことはさせたくありません。決められた時間で縛られるのではなく、個人のペースで時間を使ってもらうこと、それでも難しい場合はみんなで助け合う、これを今からスタンダードにしておけば、いつ赤ちゃんが来ても大丈夫です。

もちろん不安もあります。今いるスタッフは信頼しているので心配はありませんが、今後新規に人を雇う際、リモートという環境下できちんと仕事をこなしてくれる人材をどのように見極めて選べばいいのか正直わかりません。世界中どこからでも雇えることになるわけで、より良い人材に出会える可能性が上がる一方、選択肢も増えます。

また、数ヶ月前にお知らせしたばかりですが、去年末にオフィスを移転しました。以前よりも少し広いスペースに移ったので、当然家賃も上がりました。今から考えると決して良いとは言えないタイミングです。スタッフが来たい時に来れる場所は作っておきたいので手放すことは今のところ考えていませんが、経費のことを考えると、他の会社とシェアなども考えていかなければいけないかもしれません。