アメリカのデザイン事務所にデザイナーとして応募するときの効果的なヒント」というタイトルで、「デザイン事務所」という視点での一般的なアドバイスを先月紹介しました。私たちHI(NY)がデザイナーを選ぶ時もそれとは大差ありませんが、今回は実際にあった内容なども交えながら、私たち目線での選び方について書きたいと思います。

アメリカの会社には新卒一斉採用のシステムがなく、採用時期も設けていないと書きましたが、HI(NY)もそれは同じで、それどころかきちんと募集をかけたことすらありません。採用志願のメールは時期に関係なく1年を通して常にあり、その都度目を通しています。

私たちは、会社を始めてしばらくは、クリエイティブに関してはIkuと2人だけでやっていくと決めていたため、仕事も2人でこなせる量しかお受けしていませんでした。採用申し込みがあってもお断りをしていたのですが、ある時問い合わせてきたデザイナーの作品があまりに素晴らしかったため、「この人を逃してしまったら絶対に後悔する」という結論に。デザイナーを雇う予定はさらさらなく、そしてその余裕も正直なかったのでかなり勇気のいる決断でしたが、結果的にはこの採用が会社にとって大きなプラスとなり、会社の形態についてフレキシブルな考えを持つきっかけにもなりました。

会社経営をしている以上、きちんとビジネスプランを立て、キャッシュフローをみながら採用プランを立てるのが論理的ではありますが、いいデザイナーを見つけるというのはいいボーイフレンドを見つけるのと同じくらい大変なこと。必死になって探している時ほどいい人が見つからず、諦めた頃に突然現れたりするものです。

私たちは大きな会社ではないので、雇うタイミングというのも非常に重要。前述のように、空いているポジションがなかったにも関わらず採用したレアケースもありますが、基本的にはポジションがなければ断らざるを得ません。

以前こんなことがありました。ブルックリン在住のデザイナーが志願をしてきてくださり、彼女の作品がとても良かったので、「ポジションはないので今現在採用することはできないのですが」と断りを入れつつ、すごく可能性のある方だと思ったので実際に会って話をさせてもらいました。人柄もとても良かったので、近い将来空きが出たら必ず連絡しようと思いました。

ところがその後、進む予定だった仕事がなかなか進まなかったりで、彼女を雇うタイミングが現れず、そうこうしているうちに彼女からフォローアップのメールが。彼女も手応えが十分あったと感じた上でリマインダー的に連絡をくれたと思うので、私たちとしても嬉しかったのと同時に、雇うことができず申し訳ない気持ちでした。そんな中、ブランドを経営している友人から連絡があり、インハウスデザイナーを探しているとのこと。もちろんその彼女を紹介しました。実際に会って人柄の良さも確認してあったので、自信持って紹介できました。友人はその彼女をフリーランスとしてまず雇ったのですが、友人との相性もバッチリだったそうで、その後正規社員として雇い、本社がある州へブルックリンから引越したという話を聞いて、私もびっくりしたほどでした。HI(NY)で雇えなかったのは正直とても残念ですが、才能あるデザイナーがその才能を発揮できる場所を見つけるお手伝いができたのは嬉しかったです。

話が逸れましたが、募集しているいないに関わらず採用申し込みのメールはきちんと目を通しており、返事が遅れることはありますが一部を除いて必ず返事をしています。

その肝心のファーストコンタクトであるメールですが、もちろん印象の良し悪しがあり、やはりHI(NY)への熱い思いをきちんと書いてくださっている方はこちらも真剣に志願内容に目を通す傾向があります。中には、書き出しの「Dear HI(NY),」の部分だけはきちんと書いてあるものの、それ以下の文章が他のどの会社にも送っていそうな定型文的だったり、酷いものだと、他社とあわせて一斉メールで申し込んでくるデザイナーもいたりして、先ほどの「一部を除いて必ず返事をしています」の「一部」がその方々に当てはまります。

メールをさっと読んだ後、一番最初に目を通すのはポートフォリオ。レジュメより先にポートフォリオに目を通すようにしていて、これはレジュメよりもポートフォリオの方が大事ということもありますが、学歴や職歴などレジュメの内容から偏った見方をしないためでもあります。ちなみにポートフォリオは、「アメリカのデザイン事務所に〜ヒント」でも書いたように、PDFで添付よりも、リンク先で見られるものの方が断然嬉しいです。リンク先がPDFなのか、ウェブサイトなのかは特に気にしません。レジュメは添付でも構いませんが、実はこれもリンクの方がありがたいです。ちなみにカバーレターは特に必要ありません。

ではどんなポートフォリオが良いポートフォリオなのか?という話になると長くなるのでまた別の機会に詳しく書きますが、デザインが問題解決という意味での思考プロセスがきちんと伝わるもの、そしてデザイン的な技術でいうと、細かい部分は少々荒くても経験でなんとかなるものなので、それよりも全体的なバランスやセンスを見ています。

ポートフォリオのクオリティが高かった場合のみ、レジュメにも目を通します。学歴はさほど重要視しませんが、やはりNY市内の美大を出ている方の割合が高めで、以前はSVA出身のデザイナーが圧倒的にポートフォリオのクオリティが高かったのですが、ここ数年はPratt Institute出身の作品も非常にレベルが高いのを感じています。とは言っても世界各国から申し込みがくるので、もちろん海外の学校の評判まで把握しておらず、基本的に学歴は気にしていません。

一方職務経験はひと通り確認するようにはしていて、どんな会社でどんなポジションだったかということももちろん考慮しますが、それよりも与えられたプロジェクトをどのような責任を持ってどのように問題解決したかを見ています。

この後面接などのステップがありますが、とりあえず申し込みの時点で私たちが考慮している点が以上になります。