ブランディング

これまでに、私たちの会社HI(NY) designについてや、プロジェクトの内容など、簡単ですが紹介してきました。2015年には日本支社を立ち上げ、日本でのプロジェクトも増えました。私自身はNYオフィスをベースとしているため、日本のお客様と直接接する機会がほとんどないのですが、パートナーであるIkuは、支社設立後はNYと日本を頻繁に行き来しており、日本のデザインとブランディング事情を実際に肌で感じ、そこで大きな違和感を感じたと言います。

日本での『ブランディング』の現状から課題、そしてこれからのアプローチなども含め、今回は特別にIkuに紹介してもらおうと思います。


最近は日本でも『ブランディング』という言葉をよく耳にするようになりました。

多様で変化の早い現在のマーケットで、柔軟に自分らしく豊かにビジネスを成功に導いていく為には、ブランディングは必要不可欠です。けれども『ブランディングをしなくてはいけない』と感じて、私たちのところに来てくださるお客さまでも、実際お話をはじめてみると『•••ところで、ブランディングとは何ですか?』と言いにくそうにおっしゃる方がほとんどです。

そこで、みなさんが疑問に思っていらっしゃるこの『ブランディング』について、様々な国で長年ブランディングに携わってきた私たちの視点から『1. 日本と世界のデザイン観の違いについて』『2. ブランディングとは何か』『3. ブランディングを成功させるには』の3回に分けてお話しさせていただきたいと思います。

1. 日本と世界のデザイン観の違いについて

おととし日本に支店を設立し、日本でのプロジェクトが増えるなか、わたしたちがまずはじめにぶつかった壁は『日本ではブランディングが正しく理解されていない』ということでした。そして、なぜ日本ではブランディングが正しく理解されていないかを考えた時に、その根底にあるのは、日本での『デザイン』の解釈が他の国々と異なっているからだということに気がつきました。ここの違いを理解していないと、1. 2. 3. から4. 5. 6. をとばして7. 8. 9. 10の説明をするようなもので、ブランディングの説明がすっきりと入ってこないと思うので、まずはここから説明させていただきたいと思います。

私たちが卒業したニューヨークの美術大学では、デザイン=問題解決の手段だと教えられ、その能力を伸ばすような授業をたくさん受けてきました。ですので、わたしたちにとって『デザインする』ということは、クライアントをよく観察し、課題や問題点や強みを見極め、オーディエンスや時代、市場を考慮し、問題解決する方法を柔軟にクリエイティブに考え出し、それを可視化して伝わるかたちに落とし込んでいく、ということです。それに対し日本の『デザインする』ということは、この最後のプロセスの一部である『表面的に見た目の良いものを作ること』であると考えられているようでした。このギャップが理解できると、縺れていた糸がスルスルとほどけていくように、他の疑問点もだんだん理解できるようになりました。その一つに、日本の一般的なデザイン事務所の料金設定が低い、というものもありました。これは『デザイン事務所』として仕事をしてきた私たちにとっては大きな驚きでした。

私たちはニューヨークを拠点に、アメリカ、ヨーロッパ、南米、中東、アジアと様々な国のプロジェクトに携わってきました。そして、HI(NY)のことを説明するときはいつも、HI(NY)は『design studio』です、と説明してきました。日本語でいうところの『デザイン事務所』です。

コカコーラのような大企業やフォーシーズンズのような高級ホテルやリゾート、国連といった国際機関から、小さな個人経営のお店まで、私達のクライアントは実に様々。依頼される仕事内容はいわゆる『ブランディング』や『デザイン』です。けれども、仕事をするにあたって、一度たりとも私たちの仕事内容と『デザイン事務所』という肩書きにギャップを感じたことはありませんでしたし、クライアントのほうでもデザイン事務所がブランディングやデザインを通して問題解決をするということは至って普通のことなので、問題が生じたことはありませんでした。

しかし、それは日本では全く通用しませんでした。ですが、日本での『デザイン事務所』の主な役割が先ほどの『表面的に見た目の良いものを作ること』だと考えられているのであれば、納得できます。一般的なデザイン事務所では『表面的に見た目の良いものををつくる』ことを求められ、それより深い状況分析して問題解決していく部分は広告代理店やブランドコンサルタントなどの仕事とみられているようでした。ですので、日本での『デザイン』は、作り手が先述の『本来のデザイン』をしているか否かに関わらず、受け手が狭い意味でのデザインとして認識してるので、そこの部分にしか対価が支払われていないというのが現状でした。とはいえ、この何十年も培われた日本のデザイン観を覆すのは、パラダイムシフトを起こすのと同じこと。そしてそこは私たちのゴールではありません。そこでわたしたちは、日本では『HI(NY)はブランディング会社です』とお伝えし(ブランディングを正しく理解していただくという課題は残りますが)、日本のお客様に私達が提供するものを最短距離で理解していただける名称で呼ぶことから始めました。

しかしながら、日本でのデザイン観の違いを覆すのがHI(NY)の直結のゴールではないとはいえ、日本でも本来の意味での『デザイン』を正しく理解され、学校などの教育機関で若い世代にきちんと教えていくということは重要な課題だと思います。日本の次世代を担う子供達が、めまぐるしく変化していく環境や社会で生き残って行くためには、リミッターをかけず、クリエイティブに問題解決をしていく力が必要です。『本来のデザイン』をして行く上で必要な、社会を先読みする力、洞察力、柔軟性といった力を、デザインの学校で学ぶことが可能になり、どんな状況でもクリエイティブに解決していける人材の育成は、日本の豊かな未来につながることだと思います。その話はいつかまたの機会に。

[Photo and styling by Hitomi Watanabe Deluca]