今日紹介するブランディング・プロジェクトは、著書『ニューヨークのアートディレクターがいま、日本のビジネスリーダーに伝えたいこと』でもケーススタディとして紹介させていただいたhaishop(ハイショップ)です。

haishop横浜店の店内
haishop横浜店の店内

プロジェクトの概要

クライアントであるInnovation Designさんから最初にお話をいただいたのは、遡ること2016年末。3年後にオープン予定のみなとみらいアパホテル(アパホテル&リゾート〈横浜ベイタワー〉)で、テナント候補としてこれから事業計画を進めるという段階でした。Innovation Designさんとはそれまでにブランディング・プロジェクトをいくつかご一緒させていただいていたので、ブランディングを始める最適なタイミングを十分にご理解いただいており、この段階でお声がけいただけて非常にありがたく思いました。

どのような形態で出店するかというところから、チームのパートナーとしてブランディングの観点でじっくりと提案を重ね、そして約3年後の2019年9月、ホテル開業とともにhaishopが無事オープンしました。その後パンデミックの影響で軌道修正もありつつ、チームの方々の素晴らしい活動によって、オープンから2年弱の間にhaishopはどんどん進化しました。そして先月6月21日には、渋谷スクランブルスクエア14Fに長期ポップアップショップがオープン。このタイミングでプロジェクトについてここでも紹介できればと思いました。

haishopオリジナル商品もデザインしています

ブランディングのプロセス

Innovation Designは、ホスピタリティビジネスで「ひと」と「企業」の未来を描くというビジョンをもった会社で、特に「ひと」を大切にしており、人として人とともに歩む、人間味溢れる会社を目指しています。こういった企業とともにつくり上げていくブランドなので、まず私たちが 大切にしていきたいと考えたのは、「ひと」。そして「未来につながる」ことでした。また、パートナーとして携わるHI(NY)のコアコンピタンスである海外目線で選定・開発ができること、高いデザイン性を提供できることも、このブランドの強みとして考慮しました。

インバウンドの割合が多くなると予想される手頃な価格のアパホテルの一階に位置すること、観光地として機能する可能性もあることから、ターゲット・オーディエンスは海外からの旅行客で、年齢やジェンダーに関係なく、国際感覚をもっており、アートやデザイン、日本の文化に興味の深い知識人を設定しました。彼らは自分のスタイルをもっており、ソーシャルなことへの関心が強く、ビジョンやCSR(Corporate Social Responsibility=企業の社会的責任)を果たしているブランドを選びます。コア・ターゲットはミレニアル世代。ですので、このブランドがいかに企業としての社会的責任を果たし、ただ商品を売るという以上の「目的」を提供できるか、ということが鍵だと考えました。

これらの要素とグローバルビジネスで求められるブランドの要素を総合的に踏まえて、コアバリューをJapanese Souvenirs(日本のおみやげ)、Good Design(デザイン性)、Storytelling(ストーリーを伝える)の3つの柱とし、Socially Conscious: People + Environment(社会貢献の要素を含んでいる人+環境)でサポートすることにしました。そしてこのショップを「ストーリーを伝える日本製のおみやげショップ」に位置付け、ブランド・プロポジションは、「海外目線で選定・開発された楽しくスタイリッシュなデザインの日本のおみやげを世界の人々に向かって発信する新しいギフトショップ。産業の縮小により販路が減少したために、次世代の担い手がなく、存続の危機にある日本のクラフトや衰退産業のサポートを目的とした商品開発も行ない、商品やつくる工程や歴史、そのつくり手の思いやエピソードなどのバックストーリーを、商品を通して、つくり手と買い人、日本と世界をつなぐブランド」と設定しました。

haishopのコンセプト動画

ここで明確な差別化をしたかったことがあります。それは、「ストーリーを伝える」ということは、よくある商品の歴史や説明をするといった一方向のものではなく、伝えて、共感されて「つながる」という深いところまでを含むということ、ただのクールな日本の商品を扱うおみやげブランドというのではなく、人間らしさを感じられるブランドであること、です。

名称は、日本語としてよく知られている言葉「はい!」、フレンドリー なあいさつ “hi!”、商品の高いデザイン性を表した“High”から “haishop” (ハイショップ)という名称にしました。商品構成は、1) 日本製でバックストーリーのある商品を選定、2) 日本モチーフを使ってデザインしたもの、3) 衰退産業をサポートする商品開発、の3つで、3) の第一弾は、京友禅と縫製工場とのコラボレーションで従来の着物ではない新しい商品として開発を進めました。パッケージなどの包材は、環境負荷をなるべく少なくするものと方法にし、ストーリーは、ストラテジストの戦略のもと、 文章と映像でSNSを通じて発信していきます。VIは、商品が主役になれるようなシンプルなものにし、日の丸からインスピレーションを受けた 3つの赤丸や水玉をグラフィック・エレメントとして使用しています。

ここまでは本にも書いた通り。出版当時はまだ開業前でした。

京友禅と縫製工場とのコラボレーションによるアイマスク。絵柄が全て手描き。
たとう紙で作成したパッケージ

制作の様子を映像で紹介しています

オープン後のhaishop

オープン後、haishopの主要メンバーであるInnovation Designの表さんと和田さんが、前述のコンセプトを軸に商品を選定される中、社会にあるさまざまな課題を解決することへ繋がる商品の数々に出会ったことで、より社会的メッセージの軸を広げても良いのではないかという話になりました。当時はまだ一般的には認知されていなかったSDGsについて触れたところ、お二人の目指す方向性にぴったりとフィットし、おみやげを通して社会課題の解決を目指すショップとして舵を切られました。

haishop siinomi sweetsの美味しいお菓子を作ってくださっている『しいの実会』の皆さん。
ReFOODは、規格外で廃棄される作物から作られたドライフルーツやドライ野菜。

それに伴って、Innovation Design全体のミッションも、「『ひと』と『企業』の未来を描く」から「『人』と『地球』の未来を描く」へとアップグレード。会社全体が一丸となって、地球と社会に優しい企業へとシフトしたのです。

それからの皆さんの意識改革と行動力は目を見張るほどで、商品開発はもちろん、新しい取り組みにもどんどんチャレンジされ、haishopは文字通り「おみやげを通して社会課題の解決を目指すショップ」としてそのアイデンティティを確立させています。

社会をもっと良くする世界のアイデアマガジン「IDEAS FOR GOOD」にて、その活動の詳細が紹介されているので、ぜひご一読ください。

そして最初でも触れた通り、先月6月21日に渋谷スクランブルスクエア14Fにて長期ポップアップショップがオープンしました。東京は緊急事態宣言が続きなかなか出掛けるのが難しい時期ではあると思いますが、近くまでお越しの際には、ぜひお立ち寄りください。

渋谷スクランブルスクエアのポップアップショップ店内
渋谷スクランブルスクエアのポップアップショップ店内

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