私がDean&Delucaを初めて知ったきっかけは先週書きましたが、当時はDean&Delucaが日本進出する何年も前でしたので、日本ではその存在を知る人は限られていたと思います。そして当時、現地であるニューヨークでは、パートナーのJoel Deanと共にGiorgioがJames Beard Awardを受賞するなど、Dean&Delucaの全盛期でした。

その直後に、投資家によってDean&Delucaが買収されたため、そのアイデンティティが一部反映されない時代が続くのですが、とはいえ、Dean&Delucaがどれだけアメリカの食のクオリティ向上に貢献したか、本当にたくさんの人から教わりました。

よく、Dean&Delucaは「高級食材店」と称されます。それはアメリカでも同じで、高級な食材が揃い、お金持ちやセレブが買い物をするところ、と思っている人が少なくありません。でも、DeanとDelucaは決してそんなお店にしようとしたわけではありません。2人は、ヨーロッパでは当たり前のように手に入る、クオリティの高い、本当に美味しい食材を、ニューヨークの人々にも味わってほしいと思って始めました。クオリティの高いものは、それだけ作り手の苦労や努力、情熱や思いがこめられているので、必然的に値段も高くなってしまうものが多いのです。

Giorgioは当時、ヨーロッパへ直接出向き、良い食材と出会うために何度も味を確かめ、作り手と信頼関係を築き、自信を持ってお客様に商品を紹介していました。ニューヨーカーには見慣れない食材が多かったため、ー 例えばサンドライトマトやバルサミコ酢など ー、Giorgio自らフロアに立ち、惜しげも無く試食を振舞っては、その美味しさを伝えていました。それぞれの売り場には、それぞれに精通したスタッフがお客様のどんな質問にも答え、Dean&Delucaは食についての学びの場でもありました。

Dean&Delucaを愛したアーティストたち

当時「本当にいいもの」に飢えていたニューヨーカーは少なくなく、特に1号店があったソーホーに多く住んでいたアーティストにとって、とても大切な場所となりました。ミニマル・ムーブメントの中心的人物であるドナルド・ジャッドは、Dean&Delucaに毎日のように通っていたとか。現在公開されている彼の自宅件アトリエ(Judd Foundation at 101 Spring Street)のキッチンには、Dean&Delucaのアイテムが今でもずらりと並んでいます。彼の死後の現在もなお、娘さんのレイナーとは交友があり、会うたびに当時の話をしてくださいます。ジャン=ミッシェル・バスキアの手記(現在ジュリアン・シュナーベルが所有しており、一般には公開されていません)にも、Dean&Delucaへの思いが書かれ、Giorgioのことを「my friend」と呼んでいます。この手記のことを知った時、Giorgio本人も驚いていましたが、当時はバスキアが毎回持ちきれないほど大量に買い物をするので、よく自宅まで一緒に荷物を運んであげたことは覚えているそうです。

GiorgioがDean&Delucaをオープンさせるまで

名前のせいで勘違いされることが多いのですが、Giorgioはイタリア人ではありません。ブルックリン生まれのイタリア系2世、つまり彼の祖父母がイタリア出身です。彼は歴史が大好きで、元々は高校の歴史の先生をしていました。しかし夢を諦めきれず、先生を辞めてソーホーでチーズ屋を始めました。Giorgioの父親は、彼が子供の頃にイタリア食材の輸入業をしていたので、小さいころからイタリアの食材に触れて育ったのです。そして元々友人であり、そのチーズ屋の常連ともなったDean(当時Deanは大手出版社に勤務)とともに、数年後お店を開くことになりました。それがDean&Deluca第1号店です。

現在のBroadwayとPrince Stにあるソーホー店がオープンする以前は、121 Prince Streetにありました。そこでの写真です。Photo credit: Unknown

これからのDean&Deluca

前述の投資家による買収によって、より「高級食材店」のイメージが強くなってしまいましたし、今のスタッフの食への情熱は感じられず、食材について質問をしてもまともな答えが返ってこないことが少なくありませんが、それでも当初からある芯の部分は変わっていないと思います。Giorgioも食材の買い物に今も日常的に利用しますし、店に行くと、オープン当初からずっと常連のお客さんに出会うことも少なくありません。みなさん口を揃えて、当時のお店の雰囲気を懐かしがりますが…

2014年にはまた別の会社がDean&Delucaを買収しました。彼らは当初のDean&Delucaのアイデンティティを取り戻すと同時に、現代人のライフスタイルに合わせた新生Dean&Delucaを誕生させるべく、日々奮闘しています。これからの発展がまた楽しみです。

下のインスタグラムは、Dean&Delucaの新オーナーによって開かれたディナーイベントの模様です。(左からジュリアン・シュナーベル、フランシス・フォード・コッポラ、ジョルジョ・デルーカ)