大阪大学の村上靖彦著「子どもたちがつくる町―大阪・西成の子育て支援」の装丁デザインで私たちHI(NY)が参加させていただきました。
大阪・西成(にしなり)は生活保護受給率23%の「日雇い労働者の町」。
複雑な課題が重なり合うこの西成で、労働支援とともに広がっているのが子ども支援。
ここでは「誰一人取り残さない」という思いのもと、子どもたちの声やニーズから進化し続ける支援によって、地域全体にセーフティネットができています。大きく変わりゆくいまの日本の子ども支援にとって、西成の子どもを中心にした支援は大きな希望です。そんな西成の個性的でパワフルな支援者5人に、哲学、現象学を専門にされている大阪大学の村上靖彦さんが、西成に7年間(!)通ってインタビューをとり(今でも毎週通っていらっしゃるそう!)、語られた現実が記された本です。語り自体もそれぞれの支援者の個性を感じられて面白く、まるでそこで一緒に話を聞いているような鮮やかさと、語られる内容のリアルさでどんどん引き込まれます。
子ども支援に関わる人たちにとっては他の地域のモデルとしてのインスピレーションとなり、若い世代の人たちにとっては、目を凝らして見ようとしないとなかなか見ることのできない現実に触れることができ、問題提起をするような本だと思います。
装丁についてのプロセスや私たちの思いは、世界思想社のWebマガジンに掲載されています。
一見全く違うことのように思える、ブランディングと子ども支援。この2つを考える時、とても似ているなと感じます。
どちらも一番大切なことは「当事者の声を聞くこと」。
ビジネスには①自社②消費者(ターゲット・オーディエンス)③競合他社という3人の当事者がいます。長年主流となっていた、競合他社と比較して差別化し市場で優位をとる競争戦略ではなく、企業のもっている強みや価値(Core Competence)にフォーカスしたコアコンピタンス戦略。ブランディングにおいて、強みを引き出し価値としてアウトプットするには、ブランド構築の当事者である自社(ブランドオーナーや社員)の話をよく聞き、自社が一丸となって進みたいゴールや叶えたいビジョン、解決したい課題などのニーズを引き出していきます。そしてその強みを軸としたビジネスのターゲットオーディエンスは当事者であり、この当事者のニーズとビジネスが提供するものが重なっていなければなりません。子ども支援も同じ。当事者である子どもや若者の声をよく聞き、彼からがどうなりたいのか、何を必要としているかというニーズから支援が作られていかなくてはなりません。しかしながら、現状は制度や支援が上からのトップダウンで作られる場合が多く、支援策が子どもたちの現状や本当のニーズとかけ離れており当事者が「取り残されている」のが現状です。
社会的養護から社会的養育へ、都道府県から市区町村へ、施設から地域へと、より当事者に近づいてきている日本の子ども支援は急激なパラダイムシフトのなかにいます。自己責任だと突き放すのではなく、地域で包括的にシームレスにみんなで子どもを支えていく地域支援のモデルとして、この本に描かれている西成の支援が突破口になるきっかけになると思っています。
Links
- 子どもたちがつくる町―大阪・西成の子育て支援 (Amazon)
- 大阪大学 村上靖彦教授 (Wikipedia)
- 子どもや若者の〈声〉が響く社会を――アートディレクター小山田育が語る『子どもたちがつくる町』(世界思想社)