コロナウイルスによって、ここ数ヶ月で世界の状況ががらりと変わりました。映画の中だけで起こると思っていたことが、今実際に世界で起きています。
いつまで続くかわからないという不安と恐怖を誰もが抱え、人的被害はもちろん、経済的被害も計り知れません。
ニューヨークで感染が拡大し始めてから、外出制限等で目まぐるしく変わる状況に合わせることで必死な日々が続きましたが、既に自宅待機3週目を終え、大変ながらもこの生活に幾分か慣れてきました。少しだけ心に余裕ができたところで、最近人と(オンラインで)話すようになったのが、「コロナが収束した後の世界、つまり『ポストコロナ』はどんな世界なのか?」という点。
誰もが口を揃えていうのが、「元には戻らない」ということ。世界大戦後に世界が大きく変わったように、新しい時代に向かうことになるだろうと。未来が今までの続きではなくなるだろうと。そしてみんなが、この新しく迎えるであろう世界で、自分のあり方や自分が経営する会社のあり方について見つめ直しています。
私たちHI(NY) designも、これまでと同じようにブランディングという方法でクライアントをサポートしていくなかで、この厳しい現状をどう乗り越え、そしてポストコロナに向けて生き残っていくためにどのようにお手伝いできるか、日々考え、相談し合っています。ブランディングは、消費者に「ファン」になってもらうことがゴールという私たちの考えに変わりはありませんが、経済がひっくり返り、消費者の意識が変わった今、これまで常識であったことがそうではなくなり、ゴールを達成するためのツールや過程にも大きな変化が訪れ、解決すべく課題も新しい局面を迎えるでしょう。
私たちは、柔軟な発想で時代に合わせてフレキシブルに軌道修正できるブランディングを提供することをこれまで心がけてきましたが、今、より一層に、みんなで力をあわせて様々な角度からクリエイティブに考えて問題を解決していくプロセスが必要だと改めて強く感じています。
これから会社が、そしてブランドが、目撃するであろうポストコロナの新しい世界について考えてみました。
リモートワークの可能性
自宅待機要請がアメリカ各地で発令され、現在アメリカ労働者の約半数がリモートワーク、つまり在宅勤務をしていると言われています。取り入れたくてもなかなか手が出せなかったリモートワークに、今回強制的に移行したことで、リモートワークの効率性と可能性に気付いたという経営者も少なくありません。自分のペースでできる働き方が特にミレニアル世代に支持されスタッフの士気が上がり、それによってより良い人材を世界中から集めることが可能になります。逆に、取り入れない会社には良い人材が集まりにくくなります。また立派な事務所を構える必要性もなくなり、その分の経費をスタッフへの手当てや経営投資、または社会に還元するなど、より良い使い方をすることができます。
自粛中の動きがブランド価値を左右する
商品やサービスそのものだけではなく、会社のビジョンやストーリー、そして社会に対する姿勢などが、消費者が購買判断する大きな要素の1つとなって久しくなりましたが、コロナ感染拡大によってその意識がより一層大きくなっていることを感じます。この世界的危機の中でも、消費者は企業としてのスタンスや動きを敏感に感じ取っています。それは、地域や医療機関に対しての積極的な支援というわかりやすいものから、会社の従業員を守ろうとする姿勢、そして顧客への誠実な態度まで、さまざまです。消費者は、想像以上に敏感。大切なのは、偽りのない優しさです。何ヶ月後か、何年後かにコロナが収束したときに、消費者が選び続けるブランド・会社とそうでないものとの差がはっきりと出てくるかもしれません。
Contact-Free, but Fully-Connected
ウイルスの脅威を改めて知った今、世界はコンタクトフリー、つまり非接触の方向へと進んでいます。そしてこれは、収束後も変わることはないでしょう。規模が拡大し続けていたeコマースは、そのスピードに拍車がかかり、食料品はもちろん、これまでオンライン売上があまり伸びてこなかった日用品や医薬品なども売上が伸びることが予想されます。けれど人は、コンタクトは避けても、人や物との感情的なコネクションまでもを避けるわけではありません。実店舗での買い物では、実際に商品を手に取ったときのときめきや、店員や他の人との間に生まれるコミュニケーションが、購入判断を左右させます。eコマースが拡大する中でより重要となってくるのは、いかに感情的な部分で消費者と繋がることができるか。例えば、作り手がライブストリーミングで商品の良さを語ったり、カスタマーサポートがzoomなどの対面式電話で対応するなど、より人間らしい繋がりが求められます。
さらにコンタクトフリー
非接触の方向が進む上で、普及が一気に加速すると言われているのが、AR、VR、自動運転、そしてドローン。
AR(Augmented Reality=拡張現実)は、ゲームの「ポケモンGO」で一躍世間の注目を集めた技術です。ここ数年、主に家具販売の大手eコマースが取り入れており、室内でスマホをかざすと、商品の家具が現れて実際に部屋に置かれた様子を確認することができるというシステムによって、家具選びが非常に便利になりました。ネットショッピングがより伸びることでこれがファッションなどにもどんどん取り入れられて、自分が試着した様子を確認できるのも当たり前になってくるでしょう。
VR(Virtual Reality=仮想現実)は、大きなゴーグルが印象の強い、仮想空間を現実かのように体感させる技術です。やはりゲームでの活用事例が目立ち、一般的には広まりそうでなかなか広まっていないVR。在宅勤務が増えたことで、zoomなどを使ったWeb会議が注目を浴びていますが、VRを活用することでより現実に近いミーティングやプレゼンが可能となるでしょう。また、このパンデミックで大きな打撃を受けたトラベル業界でも、今後VRを使った旅行擬似体験の提供が増え、さらには出勤停止によってできなくなった不動産の内見も、これからVRの活躍が期待される分野となる見込みです。
実現しそうでなかなかできない自動運転や、今一つ普及しきれないドローンは、今後ネット商品の配達やフードデリバリーで力を発揮すると言われています。また、自動運転でのタクシーもより関心が高まってくるでしょう。
中国に頼らない生産
現代のありとあらゆるものが中国で生産され、その中国がコロナ感染の最初の震源地となり、工場の一時閉鎖によって世界のサプライチェーンに多大な影響を与えました。多くの企業が、中国での生産に頼りすぎることへのリスクを改めて感じていることと思います。これからは、どの国でどんな危機が起こっても対応し切れるよう、生産ラインの分散化が進むことが予想されます。
レストラン業界
外出規制となって最も打撃を受けたビジネスの1つがレストラン業界。ニューヨークでは、多くのレストランがギフトカード販売や寄付集めをすると同時に、たくさんのアイデアを絞り出しています。あるイタリアンレストランは、テイクアウトメニュー以外に、生パスタを作って販売しています。ある飲茶レストランは、蒸す前の飲茶をせいろと一緒に販売しています。あるピザレストランは、生地・ソース・トッピングをセットでデリバリーし、家で手軽にピザを焼けるように提供しています。カクテルのデリバリーを行なっているバーも増えました。冷凍食品として販売できるようにメニューを改良しているレストランもあります。SNSなどで料理クラスを開いているシェフも多くいます。別のレストラン同士が組んで、割引を提供しているところもあります。どれも素晴らしいアイデアで、コロナが収束した後になくなるものだとは思えません。どんな状況でも柔軟に対応できることが生き延びるための重要な要素であり、そしてこれがレストランの新しい形となっていくのでしょう。
さいごに
今回のようなブラック・スワン(black swan)、つまり予測のできない、そして人々に多大な影響を与える事象はまたいつか必ず起こります。地球温暖化による自然災害、そして情報の多さから生まれる人々の不安が引き起こす金融危機など、現代にはブラック・スワンの要素があまりに多くあります。どんな困難が訪れても、柔軟で誠実な姿勢で乗り越え、明るい未来を切り開いていきたいと思うのです。