パンデミックによる世界的な経済停滞とは裏腹に、2020年のアメリカでのスタートアップ資金調達は過去最高額をつけました。その中でも勢いのある領域の一つが、医療系。さらにその中でもデジタル・ヘルス、つまりデジタル技術を活用した医療・ヘルスケアの分野への投資が拡大しています。以前「アメリカのサブスクリプション・ボックス」で紹介したサプリメントのCare/ofや、「ブランドのビジョンが伝わるD2Cの商品ビジュアル」で紹介したテレヘルスのhims/hersなども、その筆頭の一部。テクノロジーによって産業構造そのものを変革するデジタルトランスフォーメーションが、コロナ禍を通じて医療業界でも加速しています。
バーチャルケア、つまり遠隔医療が急速に普及しましたが、同時に進化を遂げているのが、従来通り実際に顔を合わせて施すインパーソンの医療。医療系スタートアップの多いニューヨークでは、ブティックのようなスタイリッシュなクリニックが著しく増えていますが、インパーソンとなった時により重要となってくるのが、やはりブランディング。お客様との接点となるタッチポイントが増え、その全てが同じ方向性を向いていなければいけないからです。
そこでブランディングやデザインという観点から、今注目したい医療系スタートアップやクリニックを紹介しようと思います。なお、ニューヨークで設立されたスタートアップ、ニューヨークで展開しているクリニック、またはニューヨークに本社のある会社に限定します。
1. Tend(歯医者)
「歯医者に行くのを楽しみにしよう」というコンセプトの通り、嫌われがちな歯医者での体験を徹底的に見直したのがTend。これまでわかりづらかった治療の料金システムを透明にし、最新のテクノロジーで患者への負担を最小限にしています。私自身もこの歯医者を利用していますが、モダンな内装はもちろんのこと、治療中にかける保護メガネまでおしゃれでディテールへのこだわりが感じられます。徹底したブランディングがスタッフの知識や態度にも現れており、これまでの歯医者の概念を覆しました。
2. Candid(マウスピース型歯科矯正)
マウスピースの歯科矯正といえばインビザラインが有名ですが、中間業者を省くことでインビザラインよりも格段に安く提供しているのがCandid。クリニックに出向かずにホームキットで始められたり、途中経過もオンラインで済ませることができ、手軽に始めることができます。
3. kindbody(不妊治療クリニック)
婦人科、卵子凍結保存、そしてIVFを含む不妊治療を中心に女性の体をホリスティックに、バーチャルとインパーソンの両方でサポートしているkindbody。デリケートな分野だからこそ、女性が直感的に、そして自信を持って利用できる場を目指しているのが伝わります。
4. Oula(産婦人科)
出産ですらビジネスライクなアメリカの医療システムに疑問を投げかける形で生まれたのが、ブルックリンにあるOula。病院の都合ではなく、あくまで妊婦の意思を最大限に尊重し、妊娠から産後までをトータルにサポートしています。
5. Tia(女性クリニック)
Tiaは、女性の身体的、そして精神的な健康を包括的にケアすることを目指しているクリニック。ポップなデザインと内装で、フレンドリーな雰囲気が伺えます。
6. One Medical(プライマリケア)
デジタル・ヘルスの先駆けとも言えるOne Medicalは、現在全米に70カ所以上ものクリニックを展開するプライマリケア。メンバーシップ制で、従来のプライマリケアの問題点を改革し、私自身も長らく利用していますが、当初は本当に画期的なシステムでした。
7. Parsley Health(プライマリケア)
One Medicalと同様、メンバーシップ制のプライマリケアですが、より専門的な部分までカバーしているのがParsley Health。患者と二人三脚で、処置治療ではなく根本原因解析から治療を目指していく姿勢が伺えます。
8. Octave(メンタルヘルスケア)
テクノロジーを駆使したデータを元に、患者にとって最適なセラピストやメンタルヘルス・コーチと治療プランを選び出します。保険やスケジューリングなど、セッションを受けること自体がストレスにならないようにデザインされています。
9. Medly(オンライン薬局)
処方箋の薬をアプリを使って管理し、当日配達してくれるサービス。2017年にブルックリンに近未来的な実店舗がオープンしました。
10. Capsule(オンライン薬局)
Medlyと同様、アプリで処方箋を管理し、当日配達してくれるサービス。
11. Oscar(医療保険)
不透明な医療保険をとにかくわかりやすく提供することを目的として2012年に設立されたOscar。私も会員ですが、これまで利用していたどの大手保険会社よりも仕組みが明確なのはもちろん、健康維持のために積極的に関与してくれたり、会員の立場になって接してくれる姿勢に非常に好印象を抱いています。
12. Ro (Roman/Rory/Zero)(テレヘルス)
遠隔診察、処方、配達までを一括で行っているテレヘルスのRo。男性向けのRoman、女性向けのRory、そして禁煙治療のZeroなど、幅広く網羅しており、今最も勢いのあるデジタル・ヘルスの1つです。クリニックが少なく迅速な診察を受けることができないような地方へも対応しています。
13. The Pill Club(避妊)
オンラインで避妊薬や避妊具の処方と配達を行っているThe Pill Clubは、サンフランシスコのスタートアップですが、ちょうど今月ニューヨークで話題となったのが、この避妊具を購入できる自動販売機がダウンタウンに設置されたこと。自動販売機くらい、避妊薬や避妊具を手に入れることが女性にとって簡単で手軽であるべき、というメッセージがこめられています。