デザイナーやデザイン事務所として、専門性は必要か?」で、専門性の必要性について書きました。続きとして、その専門性の考え得る種類について紹介します。

クライアントの業種

少なくともニューヨークでは、初めて会う人に、デザイン事務所を経営しているというと高い確率で、「どんなタイプのクライアントなの?」と聞かれます。これだけで、意識せずともデザイン事務所に専門性があることを前提としていることがわかりますが、やはり分類として一番わかりやすいのがクライアントの業種。ファッション系、ビューティー系、ホスピタリティ系、エンターテイメント系、教育系、医療系など、その分野は様々です。それぞれの分野で機能するビジュアルに差があるのはもちろんのこと、その分野に精通したクリエイターならではの戦略的な提案、インサイト、そして広いネットワークが強みとなります。クライアントの立場になって考えると、その分野の経験値が高いクリエイターに依頼すると安心という心理は想像に難くありません。

フィロソフィー

時代を超えたデザインを作る、売れるデザインを提供する、デザインの力で問題解決をする、とにかく楽しむことが第一、など、「デザイン・フィロソフィー」は人それぞれ。ほとんどのクリエイターは各々のフィロソフィーを持っており、それを活動の指針としていると思います。それだけでは専門性とは呼べませんが、それをさらに一歩踏み込んで、フィロソフィーそのものを専門性として見出している会社もあります。

例えば、環境に優しいデザインを生み出すことを第一の使命とするフィロソフィーのデザイン会社があるとします。アウトプットの形態をできるだけ印刷物からデジタルのものに変えようとするアプローチや、環境に優しい素材を使った提案など、そのフィロソフィーをもとに積み重ねる経験ならではの提案ができます。同じ信念を持つ人や会社からの依頼が増えたり、その専門性を活かした企画書もより作りやすくなるでしょう。

プロセス

ブランディングのプロセスとして、ブランドの本質を引き出すための独自の方法があったり、デザインプロセスの中で、他の会社にはないユニークな指標を設けていたりなど、プロセスそのものに焦点をあてる考え方です。そのプロセスを取り入れていることがクライアントにとってどんな価値があるのか、どのような結果をもたらすのかを、ケーススタディなどをもとに示すことができれば、それは立派な専門性であり、強みであると言えます。

全工程をシステム化しているので無駄やミスが極端に少ない/「スプリント」型の合理的プロセスを取り入れている/コミュニケーションをより円滑・透明にするために自社開発のソフトウェアを使っている/どんな小さなものでもプロトタイプで承認をもらう/プロジェクト専属のデザイナーやプロジェクトマネージャーをあえて定期的に入れ替える/など、その方法は大小含めてたくさんあると思います。

自分のやり方が特別なものだと思っていたら、実は他の多くのデザイン会社も取り入れていた、逆に、自分のプロセスがごく当たり前のものだと思っていたら、実はとてもユニークだった、ということも少なくありません。同業者とのコミュニケーションも大切にしながら専門性を見出します。

特定のターゲット層

クライアントの業種による専門性と似ていますが、クライアントの顧客層別に特化したデザイナー、デザイン会社を指します。例えば中国人インバウンドがターゲットのクライアントの場合、言語はもちろん、中国人の嗜好傾向から社会的背景までを深く理解した上で提案できるデザインには説得力があり、強い専門性があると言えます。年齢層別ターゲット、収入レベル別ターゲット、人種別ターゲットなど、ある特定のターゲット層を持つクライアントを専門としてデザイン業務を進めることで、他のデザイナーにはできないその専門性を活かした提案ができるようになるのは言うまでもありません。

経営モデル

一見、クライアントには関係ないと思われるデザイン会社の経営モデルも、内容によってはデザイン依頼先を選ぶ決め手となるようなものもあります。

例えば社内はクリエイティブディレクターのみでデザイナーを持たず、プロジェクトごとに世界中のフリーランスデザイナーでチームを作る会社/プロジェクトベースではなく、月額プランでのデザインサービスを提供する会社/社員全員が新規開拓も含めた成果報酬の会社/など、クライアントにとってもなんらかのメリットがある経営モデルはデザイナーやデザイン会社の専門性となりえます。

デザインのスタイル

ひと目見ただけで、その人のデザインだとわかる独特のスタイルのデザインを提供するという専門性です。「デザイナーやデザイン事務所として、専門性は必要か?」で触れたように、インターネットの普及によって、世界中のデザイナーの作品が瞬時に共有されるようになった今、デザインのスタイルだけで専門性を見出すのは難しくなってきました。それでも、独自のスタイルを貫き通し、そのスタイルだけを求めて仕事を依頼するというシンプルな図式もまだまだあります。この図式の良さは、クライアント側の期待とデザイン成果物とのギャップが少ないことだと思いますが、問題解決という意味でのデザイナーの力は発揮しきれない弱みがあります。

媒体・テクニック

印刷物専門、ウェブ専門、パッケージ専門、動画専門など、成果物の形態で分けるという明瞭な専門性です。印刷物の中でも活版印刷専門であったり、パッケージでも香水専門など、より突き詰めたデザイン会社もあり、クライアントの幅は狭めてしまいますが、知識にはより幅と奥行きが生まれ、同時に得る信頼は絶大です。

 

長くなったので、私たちHI(NY) designの専門性についてはまた別の機会に書きたいと思います。