*2020/9/23 追記

残念ながら、2020-21シーズン全演目の中止がたった先ほど発表されました。同時に、2021–22シーズンの演目が公開されるというエキサイティングなニュースも。メット史上初、黒人作曲家によるオペラの公演など、来年は歴史的なシーズンになりそうです。

 

シュトラウス『影のない女』| Image from The Met

メトロポリタン・オペラを最高に楽しむ12のコツという記事を2017年書いて以来、オペラシーズンが始まる直前に毎年そのシーズンのおすすめオペラを紹介してきました。

このウェブサイトを運営する上で、毎年始めに1年の主な計画を立てるのですが、その中で唯一、投稿日と題目がはじめから決まっているのがこのオペラおすすめの記事で、今年も例外ではありませんでした。

ところが3月に、新型コロナウイルス・パンデミックによってニューヨークが閉鎖。言うまでもなくメトロポリタンオペラも公演中止となり、さらに次シーズンも年内は中止になることが6月に発表されました。この先さらなるキャンセルも予想される中、今年のオペラ記事も中止しようかとも思ったのですが、こんなときだからこそ、メトロポリタンオペラを応援する気持ちも込めて予定通り書くにことにしました。

記事を書いている今まさに、オペラ界スーパースターのアンナ・ネトレプコがコロナに感染し入院したという速報が入ってきたところで、改めて公演再開の壁の高さを物語っています。

9月20日現在の状況では、12月31日のニューイヤーズ・イブ・ガラを皮切りに2020-21シーズンが始まり、当初の予定よりも演目の数は減らしつつも、6月5日まで約130の公演が予定されています。137年のメトロポリタンオペラの歴史上、最も遅い開幕公演だそう。

ニュープロダクション(=新しい舞台セット)としてお披露目される予定だった5演目のうち、モーツァルトの『魔笛』と『ドン・ジョヴァンニ』は元のステージを再利用して公演、そしてヴェルディの『アイーダ』とプロコフィエフの『炎の天使』はキャンセルが決定しています。

他にも比較的’重め’の演目が中止され、代わりに王道の人気演目、プッチーニ『ラ・ボエーム』やヴェルディ『椿姫』などが公演日が追加されています。

それではこれまでと同様、今シーズンの演目の中から、メトロポリタン・オペラ初心者の方におすすめのオペラと、私が個人的に楽しみにしているオペラをそれぞれ紹介したいと思います。

ロッシーニ『セビリアの理髪師』| Image from The Met

メトロポリタン・オペラ、今シーズンのおすすめオペラ

音楽、ストーリー、出演歌手、舞台セットなど全てを考慮した上で、今シーズンの演目の中から、メトロポリタン・オペラ初心者の方におすすめのオペラを4つ選びました。

1. ロッシーニ『セビリアの理髪師』

ロッシーニの代表作。私はこの演目が好きすぎて、中でも特に有名なアリア「Largo al factotum(町の何でも屋に)」を特訓し、Giorgioの誕生日に披露したという小恥ずかしい過去があります。オペラ・ブッファ(喜劇)なので屈託なく楽しめる作品です。序曲も有名。

2. ビゼー『カルメン』

全オペラ作品の中で随一の知名度を誇る人気演目、『カルメン』。個人的にはあまり好きなオペラではありませんが、序曲やアリア「Habanera(ハバネラ)」など、誰もが知っているような親しみやすいメロディが多く、いろいろな意味で苦しいこのシーズンに公演日が追加されたのも納得です。

3. ヴェルディ『ナブッコ』

第三幕の合唱曲「Va Pensiero(行け、我が想いよ)」が非常に有名なヴェルディの代表作の1つ。彼自身の葬儀で、トスカニーニが指揮をとって大勢の市民が大合唱したのがこの曲です。スター歌手ネトレプコが出演します。

4. ドヴォルザーク『ルサルカ』

2016-17シーズンにニュープロダクションがお披露目され、その年の予想外のヒットとなったルサルカが今シーズン戻ってきました。有名なアリア「Song to the Moon(月に寄せる歌)」のシーンがとても幻想的だったのを覚えています。ヨンチェヴァベチャワオーウェンズなどスター揃いです。

ヴェルディ『ナブッコ』| Image from The Met

私が今シーズン楽しみにしているオペラ

1. シュトラウス『影のない女』

これまで鑑賞したオペラの中で最も感動したベスト3に入るのが、7年前に全く予備知識も期待もなくみた『影のない女』でした。このときのゲルケの素晴らしいパフォーマンスで一気にファンになりましたが、その役を今回演じるのがやはり偉大なシュテンメということで楽しみです。

2. ブリテン『ビリー・バッド』

アメリカを代表する作家の1人であるハーマン・メルヴィルの遺作、『ビリー・バッド』。これを主題に、イギリス人作曲家ベンジャミン・ブリテンによって書かれたのがこのオペラです。1978年のメット初演から使われている、ジョン・デクスターのクラシックなプロダクションが楽しめます。メットでは8年ぶりの公演。

3. ヘギー『デッドマン・ウォーキング』

今シーズン、唯一予定通りニュープロダクションで進められるのが、この『デッドマン・ウォーキング』で、メットでの初演となります。作曲は現代作曲家へギー、作詞は著名劇作家マクナリー(残念ながらコロナ感染で今年亡くなられました)、舞台セットはヴァン・ホーヴェ、そして主役は偉大なメゾ・ソプラノ、ディドナートが務めます。間違いなく今シーズンの目玉です。

ブリテン『ビリー・バッド』| Image from The Met