私がお菓子作りを突然始めたのが、約5年前の2012年。
夫でありDean&Delucaの創設者であるGiorgioが焼き菓子、主にフランスのお菓子がとても好きで、特にフルーツを使ったものが元々大好きでした。パリに行くときは必ず美味しいパン屋などを見つけては旬の果物を使ったタルトやペイストリーを楽しんでいたのですが、その度に「パリでは美味しいフルーツペイストリーが当然のように簡単に手に入るのに、ニューヨークでは全然見つからない」と嘆いていました。それじゃあ私が作るしかない!と思ったのがきっかけです。
が、私はかなり甘く考えていました。ネットで適当に見つけてきた「簡単」が売りのタルトレシピを元に、プラムタルトをまず作りました。なぜ何の根拠もなくあんなに自信があったのかは、今思うと不思議でなりません。ほとんど手を汚さずして作れてしまったこの「簡単」タルトは、もちろん大失敗。見た目も味もかなり酷いレベルでした。そしてこの大失敗が、私の闘争心に火をつけることになったのです。
目標は、もちろんGiorgioが大満足するお菓子を作ること。そしてそこでGiorgioが提案したさすがのアドバイスが、「いろんなものに挑戦せず、1つのアイテムに絞ってそれをまず100回作ってみよう」。彼のために作ろうと思っているのに、とんだスパルタです。私の負けず嫌いな性格をよくわかっています。
そこで私が選んだのが、やはりタルト。フレンチ・タルトです。具材次第でいろんな種類のタルトができるので、まずはその生地であるパートブリゼ(Pâte brisée)を習得しようと決めました。
それからと言うもの、私は狂ったようにタルトを焼きまくりました。まずは本やネットから色んな情報を集め学びました。そして完璧な生地を作り上げるために、小麦粉と油脂との割合を少しずつ変えて味比べをしたり、油脂にバターやショートニングなどを試したり、バターや小麦粉のメーカー別で比較もしました。毎日タルトを焼き、下手をすれば出勤前と出勤後にそれぞれ1回、つまり1日2回焼くことも珍しくなく、課題だった100回はあっという間に過ぎました。
こうして、私なりの「パートブリゼ黄金比」が出来上がったのです。
このパートブリゼがあれば、具材次第で無数のタルトが作れます。お菓子だけではなくキッシュなどのおかずタルトも可能です。そして目標であったフルーツタルトですが、実はフルーツの扱いもそれはそれは奥が深く、今もなお悪戦苦闘することが多々ありますが、それでもGiorgioから100%お墨付きのフルーツタルトレシピがいくつか完成しました。
タルトの戦いが始まってから、少なくとも1年は毎日焼き続けました。その後は他のお菓子も挑戦するようになり、保存版レシピも増えました。2年前に息子が生まれてからは、時間も限られているので、週に1回と決めて焼いています。息子に安心なおやつをあげることができるのも嬉しいですし、焼くたびにGiorgioが本当に嬉しそうに食べてくれるのが、何より幸せです。
これからお菓子のレシピを時々紹介できればと思っています。今日は早速そのパートブリゼのレシピを紹介します。
小麦粉について
アメリカの小麦粉は、日本のそれと同様、タンパク質(グルテン)含有率で区分されています。私がパートブリゼで使うのが、アメリカではあまり使われないペイストリーフラワー(Pastry Flour)で、一番一般的なオールパーパスフラワー(All-purpose flour)よりもタンパク質が少ないタイプのものです。グルテンが少ないので、より繊細な歯触りのお菓子が作れます。ペイストリーフラワーのタンパク質は8-9%あたりと言われていますが、メーカーによって様々で、中でも低めのKing Arthur Flour (8%) やDaisy Flour (7.5-8.5%) のものを気に入って使っています。
フランスの小麦粉は灰分量によって区分されるので、また少し違ってくるのですが、アメリカのペイストリーフラワーに最も近いと言われているのが、Type45。
日本は、ペイストリーフラワーと同区分になるのが薄力粉で、最も一般的な「日清フラワー」のタンパク質は7.7%とのことです。
フードプロセッサーについて
私は普段このフードプロセッサーを使って生地を作っています。でも最初の数回は、生地の感触を手で感じるためにも、プロセッサーを使わず作ってみることをおすすめします。
出来上がった生地は、最低1時間は冷蔵庫で冷やしてから使ってください。できれば2-3時間冷やすと、グルテンがしっかり引き締まりまり、繊細な生地に仕上がります。
冷蔵していれば、2、3日内は問題なく使えます。
冷凍の場合は、1、2ヶ月は問題なく使用できます。その場合は、使う前日に冷蔵庫に移し、一晩かけて解凍させます。そして使う直前まで冷蔵庫で冷やしておきます。
パートブリゼを使ったレシピ
[Photos and styling by Hitomi Watanabe Deluca]